日本相撲協会は11日、都内で臨時理事会を開き、協会作成の新型コロナウイルス対策のガイドラインに違反した大関朝乃山(27=高砂)に出場停止6場所と6カ月50%の報酬減額の懲戒処分を下した。

 

名古屋場所(7月4日初日、ドルフィンズアリーナ)はかど番で迎えるため、大関からの陥落が決定。
復帰予定の来年名古屋場所では三段目からの出直しが濃厚となった。
また、部屋付き親方で昨年12月まで師匠を務めた先代高砂親方の錦島親方(65=元大関朝潮)にもガイドライン違反があったとし、提出されていた退職届を10日に受理したことも発表した。

 

愚行を犯した協会の看板力士に厳罰が下った。
電話取材に応じた尾車コンプライアンス部長(元大関琴風)は「大関で模範にならないといけない地位ということも大きい。虚偽の報告をしましたよね、これが一番いけないこと」と処分理由について説明した。

 

事実関係を調査したコンプライアンス委員会によると、朝乃山は外出禁止期間中の1月の初場所前、3月の春場所前と同場所中、5月の夏場所前に計10回キャバクラに通っていたことが明らかになった。
また、20年11月場所前までの外出禁止期間中にも計3回、会食を行ったという。

 

5月20日発売の週刊文春でキャバクラ通いが報じられた。
夏場所中に行われた同部長の聞き取り調査に対し、朝乃山は事実無根を主張。
外出期間中でも例外として許されている整体治療に行くため東京・神楽坂で待ち合わせをしただけ、などと同行した記者と口裏合わせした。
また、携帯電話に残っていた記者らとのやりとりのメッセージを消去するなど証拠隠蔽(いんぺい)工作を行ったという。

 

しかし、夏場所中に再び実施された聴取では一転して事実を認めた。
師匠の高砂親方(元関脇朝赤龍)によって、5月21日付で自身の引退届も提出された。
コンプラ委の調査に誠実に対応し、猛省しているという。
同委は八角理事長(元横綱北勝海)に出場停止と報酬減額の懲戒処分を答申。
これを受けて処分が正式決定した。
今後協会に迷惑をかける行為を行った場合に受理すること、そのことを了承する旨の誓約書を朝乃山に提出させたことで、引退届を八角理事長預かりとした。

 

師匠の高砂親方(元関脇朝赤龍)は3カ月20%の報酬減額処分が決まった。
調査したコンプライアンス委員会は「朝乃山とのコミュニケーションを密にし、日々の朝乃山の様子を観察するなどしていれば、キャバクラ通いなどを繰り返していることを見抜くことも可能だったと考えられる」と反省を促した。
高砂親方は協会を通じて「大関という重責を担う立場でありながら自覚のない軽率な行動をさせてしまったことは、師匠として私の不徳の致すところでございます」とコメントした。

 

また、朝乃山と接待を伴う飲食店に通っていた東京本社編集局元記者(東京本社付)について、10日付で諭旨解雇処分としたと発表した。

同社は第三者の弁護士を中心とした調査を実施した。
元記者は事実隠蔽のために朝乃山に口裏合わせを提案し、協会による事情聴取に対して朝乃山が当初、虚偽の内容を述べていたことが判明したとした。
「一連の行動が著しく記者倫理に反するだけでなく新型コロナウイルス感染防止の観点からも不適切な行動だったと判断しました。元記者は朝乃山関よりも年長者であり、規則遵守を助言する立場にありながら正反対の行動を取った事実も重くみました」と説明した。

 

朝乃山は引退はせずに角界に残るが、いばらの道は続く。
6場所出場停止で三段目への陥落が濃厚。
将来横綱を期待された力士とはいえ、1年間本土俵を離れる影響は計り知れない。
これまでの華やかな生活から一転、幕下以下は無給となり、行動も厳しく制限される。
出場はしないものの地方場所には帯同し、名古屋場所(7月4日初日、ドルフィンズアリーナ)も現地に行くという。
どれだけ相撲に向き合えるかが再起の鍵になる。

 

【朝乃山英樹(あさのやま・ひでき)】
本名・石橋広暉。
1994年(平6)3月1日、富山市生まれ。
相撲は小学4年から始め富山商高3年で十和田大会2位、先代高砂親方(元大関朝潮)、部屋付きの若松親方(元前頭朝乃若)と同じ近大で西日本選手権2度優勝など。
16年春場所、三段目最下位格(100枚目)付け出しで初土俵。
19年夏場所で初優勝し、20年春場所後に新大関に昇進。
186センチ、174キロ。

 

【高砂部屋】
1871年(明4)3月、初代「高砂浦五郎」の山崎伊之助(元前頭高見山)が部屋を興した。
師匠は代々「高砂浦五郎」を名乗る。
元大関朝潮の長岡末弘は02年2月に7代目として継承。
昨年12月に7代目が65歳となり協会の定年を迎えて、前錦島の元関脇朝赤龍と名跡を交換して部屋を継承した。
元横綱朝青龍ら計7人の横綱、大関朝乃山ら15人の大関が誕生した。

 

<コロナ禍の相撲界>
▼20年3月1日 春場所の史上初となる無観客開催が決定。
▼4月25日 高田川部屋で高田川親方(元関脇安芸乃島)、十両白鷹山ら6人の新型コロナ感染を発表。
▼5月4日 夏場所中止、名古屋場所の会場を東京に変更し「7月場所」として開催する方針を決定。
▼5月13日 高田川部屋の三段目力士、勝武士さんが新型コロナ感染による多臓器不全により死去。
▼8月6日 7月場所中に不要不急のキャバクラ通いをした当時幕内の阿炎を、3場所の出場停止、減給処分とすることが理事会で決定。
▼21年1月9日 初場所前に協会員878人のPCR検査を実施。新型コロナの影響で関取15人を含む力士65人の休場が決定。
▼2月22日 初場所中にマージャン店に出入りするなど不要不急の外出をした、当時の時津風親方(元前頭時津海)の退職勧告処分が臨時理事会で決定。

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