アップルフリークでもあるライターの水川歩さんは、現在iPhone 12 miniを気に入って使っています。
先日発表されたiPhone 13シリーズは“すごい”と感じる部分もあったものの、全体には“ガッカリ”の内容だったと感じたそう。
どのような部分がガッカリだったのか、率直な意見をうかがいました。

 

毎日使う身近な存在であるiPhoneが、また縁遠く感じるようになってしまった…というのが、9月27日から販売が始まる新しいiPhone 13シリーズを見て感じた率直な感想です。
というのも、先日開かれた発表イベントを見ても、「イマイチ新しさがピンとこない」。
Apple製品の本質的な素晴らしさは「スペック(数字)」ではなく「体験」にあるはずなのですが、どうも普通の生活に影響するような進化に乏しくなっていると思うのです。

 

簡単にいえば“先を行きすぎていてついていけない”という感覚です。
発表イベントで数字や規格ばかりが強調されていたのもそう感じた理由なのですが、「1200ニト」「f1.5」「Dolby Vision HDR10 HLG」「5nmプロセス」「150億のトランジスター」「1.7ミクロンピクセル」といった数字だけを目にして「あっ、欲しい!」と思う人がいったいどれくらいいるのでしょうか。

 

もちろん、近年のiPhoneは進化のティッピングポイントを超えて成熟期に入っただけに、みんなをあっといわせる“Magic”を繰り出すのはいくらAppleでも難しいでしょうし、「体験」の部分をお得意の資本力豊かな美しいビデオで補ってはいましたが、それにしても発表イベントの冒頭に流れた「California Soul」という歌以上に体にビビッとくる感動が少なかったと思います。
最近のiPhoneは、毎年買うようなコモディティ製品ではなくなり、数年前以上の買い替えユーザーが対象なので、「iPhone 12のマイナーバージョンアップ」でビジネス的には十分なのかもしれませんが…。

 

といった愚痴はそこそこに、iPhone 12 miniを愛用する一個人として、iPhone 13シリーズで注目すべきポイントと、逆にがっかりしたポイントをお伝えしたいと思います。

 

まず前提として、確かに進化はしているのでしょうが、新しいチップ(A15 Bionic)やカメラシステム、ディスプレイは先の「スペック軽視」の個人的理由からそこまで刺さりませんでした。
性能や電力効率がより優れ、写真はより美しく、ディスプレイはより美しくなっていて、他社のスマホと比べて圧倒的なのは間違いないとはいえ、これらは毎年の順当進化といえます。
発表イベントを見る限り、iPhone 12シリーズと比べて体感的に違いを感じるほどではないと思います(数年前以上のiPhoneとは別格でしょうが)。

 

強いて言えば、12シリーズでProやPro Maxにのみに搭載されていたセンサー式の光学手ブレ補正が13/13 miniにも搭載された点は注目に値するかもしれません。
ブレずに写真が撮れるというのは、誰にとってもうれしい進化です。
また、13 Pro/Pro Maxでは3つの背面カメラすべてに新しいセンサーとレンズが搭載されている点は、特にカメラ好きの方には魅力でしょう。
A15 BionicのISP(画像信号プロセッサ)の進化に加えて、広角カメラではより明るいf/1.5の絞り値になり、暗い場所での撮影性能が向上しています。
また、最短2cmのマクロ撮影が可能になった超広角カメラ、光学3倍ズームが可能となった77mmの望遠カメラも、「写真体験」を変化させる可能性を秘めています。

 

さらに、13 Pro/Pro MaxのディスプレイがiPhoneとして初めてProMotionに対応し、画面のリフレッシュレートが従来の60Hzから120Hzになった点は、特にゲームファンには嬉しいポイントでしょう。

 

今回のiPhone 13シリーズで個人的にもっとも素晴らしいと感じたのは「フォトグラフスタイル」と「シネマティックモード」です。
フォトグラフスタイルは、ユーザーの好みに合わせて写真の画像処理を自動で行ってくれる機能。フィルターでは得られないような自分好みの写真を手にすることができます。

 

一方のシネマティックモードは、iPhoneのカメラが被写体にあわせて自動でピントの位置を変えてくれる機能。
「これまでのiPhoneの弱点はレンズから奥行きを出すことができなかったこと」と発表イベントに出演した映画監督が言っていましたが、この機能があれば素人でもまるで映画のような奥行きのあるビデオが撮影できます。

 

iPhoneを手にすれば「プロにしかできなかったことが普通の人にも身近になる」という体験を推し進めるうえで、まさにAppleらしい新機能だと思います。
同時に、プロのクリエイターによって新しい写真/映像表現が可能になり、それを毎日の生活の中で味わえるようになるのが楽しみです。

 

一方で、うれしさ半分/残念半分だった進化には、本体前面にあるフロントカメラやマイクなどを内蔵する「ノッチ(TrueDepthカメラシステム)」が20%小さくなった点が挙げられます。
表示エリアが広くなったのは嬉しい反面、20%でどれだけの効果があるのかは疑問…。
Appleが目指すであろう“ノッチレス”(完全全面ディスプレイ)を実現してほしかったところです。

 

また、iPhone 12シリーズと比べてバッテリー時間が延びている点は一定の評価をしています。
13/Pro Maxでは2.5時間、13 mini/Proでは1.5時間も長く使えるようになっているのですごいことなのですが、12 miniのバッテリー容量は特に少ないため、欲を言えばもう少し駆動時間が長くなってほしかったところです。

 

一方、完全に残念だったポイントとしては、まずインターフェイスが引き続きLightningのままであること。
MacやiPadがUSB-Cにほぼ移行し終えた今、身近にある周辺機器を併用するうえでも、いち早くUSB-Cを搭載してほしいと感じます。

 

また、13/13 miniでProRAWがサポートされなかった点はマイナスポイントですし、SNSを見ているとFace IDのままでTouch IDが搭載されなかったのを残念に感じる人も多いようです(個人的にはそうは思わないのですが)。

 

もっとも残念だったのが販売価格です。
13 miniの価格は128GBが86,800円、256GBが98,800円、512GBが122,800円、13は128GBが98,800円、256GBが110,800円、512GBが134,800円で、単純にストレージ容量で比較すると1,000円程度は安くなっているのですが、64GBモデルがなくなったことでスタート価格(もっとも安い端末の価格)が4,000円ほど底上げされています。
Pro/Pro Maxは、12シリーズと比べて全容量で価格が値上げされています。

 

iPhoneの高価格路線はこのままずっと続いていくのでしょうか。
プロフェッショナル向けの「最高のiPhone」を追求することには賛成ですが、多くの人にとって最近のiPhoneはオーバースペックですから、Appleには「最高のiPhone=もっとも高価なiPhone」ではないという観点から、これまでの進化のベクトルとは違った改良を図ってほしいと思います。
今回、「フォトグラフスタイル」と「シネマティックモード」については褒めましたが、果たしてどれだけの人が普段の生活の中で使うのか、という疑問は残りますし…。

 

たとえば、パフォーマンスは多少犠牲にしてもいいので、「落としても壊れないiPhone」とかはどうでしょう。
iPhone 12シリーズから搭載され、13にもディスプレイを保護する「セラミックシールド」が踏襲されていますが、これは素晴らしい進化だと思っています。
というのも、iPhone 11と比較して耐落下性能が4倍向上したことで、普段使ううえで多少乱暴に扱っても壊れないような安心感を感じるからです。
天下のAppleはもちろん研究しているに違いありませんが、そんな“日々の生活にダイレクトに直結する革新”を次期iPhoneでは叶えてほしいと切に願います(あとは「1週間バッテリーが持つiPhone」とか?)。