「もし中止になれば、組織委がIOCに巨額の拠出金を返還しなければならなくなる事態も想定されるが、そんなことは現実的には不可能。
軽々しく“東京五輪中止”などという人たちもいますが、はなから政府にもIOCにも中止という選択肢はあり得ない。
無観客だろうが、外国から選手が来ずに“日本国民スポーツ大会”になろうが、どんなかたちであれ実施するしか道はない。
重要なのは、かたちだけでも開催したことにするということなんです」(霞が関官僚)

 

政府は14日、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、北海道、岡山県、広島県に緊急事態宣言を発令することを決定し、これで同宣言の対象地域は東京を含む9都道府県に拡大される。
さらに「蔓延(まんえん)防止等重点措置」の対象地域も10県に拡大され、医療従事者や高齢者へのコロナワクチン接種の遅れも問題視されるなか、7月23日開幕の東京五輪が約2カ月後に迫りつつある。

 

先月28日には政府のコロナに関する基本的対処方針分科会の尾身茂会長が国会で、「(五輪)開催に関する議論をしっかりすべき時期に来ている」と発言。
五輪中止を求める声も高まっているが、菅義偉首相は今月13日、森田健作前千葉県知事との面会時に「五輪を目指す」と発言。
丸川珠代五輪相も11日の記者会見で、「(五輪には)人々の間に絆を取り戻す大きな意義がある」「コロナ禍において東京大会は、世界中の人が新たな光を見いだすきっかけになる」と語り、政府からは五輪実施への強い意思が伝わってくる。

 

そんななか、もし五輪が中止になった場合、日本側が国際オリンピック委員会(IOC)から違約金として賠償請求がなされる可能性が指摘されているが、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(組織委)の武藤敏郎事務総長は13日、「考えたことはない。あるのかどうかも、ちょっと見当つかない」「そんなことを言い出す人がいるのかも含めて、私には予想がつきません」と一蹴した。

「もし日本側の判断や要請によって中止になった場合にIOCが被る損害について、IOCが日本側へ賠償を求める権利を放棄すると開催都市契約に明記されていないということで、違約金の件が指摘されている。
加えて、東京都が公表しているとおり、IOCは組織委に850億円の拠出金を支払っており、もし五輪中止によってIOCがテレビ局などから放映権料の返還を求められた場合、組織委はIOCにその拠出金を返還しなければならない取り決めになっている。
一方のIOC側も、たとえばアメリカのテレビ局とは、東京五輪を含む6大会分の放映権に関して一括で7000億円を超える額で契約しているといわれており、もし中止となれば世界中の放送権者から返還を求められる事態も想定される。
では日本やIOCがこうした金を払えるのかといえば、現実的には難しく、それゆえに最大の当事者である両者が中止という選択肢を取る可能性はないいとみられているわけです。
実際に、菅首相周辺を含め政府内部では、中止の議論すらされた形跡はありません」(全国紙記者)

 

国内の放映権については、NHKと日本民間放送連盟で構成するジャパンコンソーシアムが、2018年~24年までの東京五輪を含む4大会分について、IOCと1100億円で契約している。

「東京五輪分は約300億円で、NHKが5割以上、残りを民放各社が分け合って負担しています。
テレビ業界的には開催か中止かは“五分五分”という空気ですが、キー局各局は、もし中止になった場合に備えて、通常のレギュラー番組や総集編などで空いた穴を埋めるかたちで“Bプロ”を組んでいるので、対応は可能です。
ただ、中止になったからといって、もしIOCに放映権料の返還を求めれば、回り回って組織委をはじめとする日本側がIOCから拠出金の返還や違約金を要求される恐れがあり、政府からの圧力や世論の反発もあるでしょうから、果たして放映権料返還の請求などできるのかという話もあるわけです」(テレビ局関係者)

 

また、スポンサー問題も複雑に絡んでいる。
IOCの発表によれば、東京五輪・パラリンピックではスポンサー企業の契約総額は、日本企業だけでも30億ドル(約3300億円)超にも上っている。
さらにコロナ禍で昨年、五輪開催延期となったことを受け、組織委の森喜朗会長(当時)と武藤事務総長がスポンサー企業を行脚して契約延長を要請し、国内の全スポンサー企業が延長に合意。
組織委は追加で200億円以上の協賛金を集めた。

「もし中止になれば、追加の協賛金を含めて多額のスポンサー料を拠出してきた企業は、株主から損害賠償訴訟を起こされるリスクもあり、菅政権は経済界全体を敵に回すことになる。
口が裂けても中止などという言葉は出せないでしょう」(大手広告会社関係者)

 

延期前の時点で、東京五輪・パラリンピックの開催経費は1兆3500億円となっており、組織委、東京都が各約6000億円、国が1500億円を負担することが決まっていた。
そして昨年の延期に伴い、組織委が1030億円、都が1200億円、国が710億円を追加で拠出することで合意し、開催経費は総額で1兆6440億円にも膨らんでいる。

「すでに発生した費用もあれば、かからずに済む費用もあるわけですが、中止になれば“カネの精算をどうするのか”という気の遠くなるような問題も出てくる。
今、組織委のなかで一番の関心事は、開会式・閉会式と競技が観客ありで行われるのか、無観客になるのかということ。
開幕まであと2カ月しかないのに、早く政府がそれを決めてくれないと、会場の設備や運営、スタッフの手配をどうすればよいのかを決められず、準備が進められない。
実は組織委は内々で、すべて無観客での開催となった場合にどれだけ追加損失が出るのかを試算していて、結果は数十億円だといわれている。
コロナで国内世論ですら開催反対が強まり、外国から本当に選手が来るのかもわからず、無観客でやったとしても巨額の損失が出る。
組織委の職員の間でも『そこまでして五輪をやる必要があるのか』『いったい何のために、これだけのカネとヒトと労力をかけているのか』という声が出るほど、士気は低下しています」(組織委関係者)