映画『夜のピクニック』、『リアル鬼ごっこ』シリーズなどで人気を博した俳優の石田卓也(34)が、2017年に所属事務所を退社後、3年間の空白を経て、芸能活動を再開させた。
2022年には出演映画『狼 LONEWOLF』『あしやのきゅうしょく』が劇場公開される。
InstagramなどSNSも活発化し、ファンにはうれしい限りだが、3年間、石田は何を思い、何を求め、何を模索していたのか。
石田は、2002年に開催された第15回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでフォトジェニック賞を受賞し、これをきっかけに2005年、俳優デビュー。
同年に公開された映画『蝉しぐれ』ではキネマ旬報新人賞を獲得し、以降、『夜のピクニック』『グミ・チョコレート・パイン』『東京少年』『リアル鬼ごっこ』など映画を中心に活躍。
細田守監督の劇場アニメ『時をかける少女』では声優に挑戦するなど、将来を嘱望される俳優の一人として注目された。
「事務所を辞めたあと、フリーという縛りのない環境を利用して好きなことをやってみようかな、と思うようになった。
僕にとってそれが“農業”だったんです」
という石田。
趣味としてヨガを学んでいるときに出されたオーガニック野菜の美味しさに感動し、どんどん体の調子が良くなっていくことに驚き、「チャンスがあったら農業を本格的に学びたい」という思いを募らせていた。
「農業に興味はあったといっても、ほとんど未経験に近かったので、どこかに学びに行かなければいけないと思って、まず、長野の高原野菜の農家さんのところで住み込み修行を始めました。
ただ、そこは慣行農法といって農薬や化学肥料を使うやり方で、僕が求めている無農薬のスタイルではなかったので、北海道にあるオーガニックのアスパラ農園に移って、そこで1年、あらためて経験を積ませていただきました」。
同時に、農業の基礎を学ぶために自然栽培農学校にも通ったという石田。
そんな真摯な姿を見ていた農園の“ボス”から、「日本はオーガニックに関してはすごく遅れている。もっと興味があるんだったら海外に行ったほうがいい」とアドバイスを受ける。
「その言葉を受けて、世界のオーガニック農園が登録しているサイトを検索し、興味を持ったところを見てまわるという視察旅行がスタートするわけですが、『海外にいて俳優の仕事ができなかった』というのは、これが理由ですね」と笑顔を見せる。
「オーストラリア、ハワイ、タイ、スリランカ、インドなど、いろんな国の農家さんを視察しましたが、国によってやり方が全然違うことに驚き、心が動かされました」と目を輝かせる石田。
農業の世界に魅了された彼の脳裏には、いろいろな夢や青写真が広がっていたことだろう。
ところが、2020年、新型コロナウイルスの猛威が石田の運命を大きく変える。
「インドでカカオを栽培していたんですが、コロナが急に流行りだして。
インドは衛生面が良くないので『これはヤバイ』と思っていたんですが、その翌日、インド政府が交通機関を全て遮断すると発表したので、これはもう帰国するしかないと。
やむなく日本に帰ってきたわけですが、さてどうしたものかと……しばらくは先が見えない状態でした」
と当時を振り返る。
しかし、数か月後、石田にさっそくオファーが入る。
「知り合いが声かけてくれて。『あしやのきゅうしょく』という作品なんですが、出てみないかと。
これが“食の安全性”がテーマの映画だったので、久々に俳優業をやるきっかけとしては最高の作品じゃないかなと思って出演することを決断しました」。
3年ぶりの撮影現場、思っていたよりも軽やかな気持ちで臨めたという。
「芸能生活から完全に離れて、世界のいろんな国の人たちと農業を通じて触れ合い、新しい“石田卓也”という自分を感じることができ、とても軽やかな気持ちで現場に立つことができました。
今は、自分が信じているもの、突き詰めたいものを磨いて、作品を観た皆さんに何かを感じてもらえれば、と思うようになりました」。
そして、俳優・石田卓也の再始動は、六車俊治監督渾身の一作『狼 LONEWOLF』(2022年冬、新宿武蔵野館ほかにて公開)への出演とつながっていく。
スタントマンのハードな世界の裏側をリアルに描く完全オリジナルストーリー『狼 LONEWOLF』は、CGを一切使わず、スタントマンがガチで危険なシーンに挑戦する骨太アクション。
スタント界のレジェンド・高橋昌志も重要な役どころで出演し、華麗なスタントシーンはもとより、少し陰りを帯びたいぶし銀の演技を魅せている。
当時、撮影は順調に進んでいたが、高橋演じる“狼”と対峙する悪役がなかなか決まらず、スタッフは焦っていた。
そんなときに石田が映画に復帰していることを知ったチーフ助監督は、六車監督の了解を得て、すかさず連絡したという。
「六車監督とは、昔、ドラマ『クロヒョウ 龍が如く 新章』でご一緒させていただいていて、そのときに『また何かやりたいね』って話してたんですよ。
だから連絡を頂いたときはすごくうれしくて、役柄も聞かずに即お受けしました。
『悪役だけどいいの? CM来なくなるよ』って言われましたが、『そんなの関係ないっすよ!』って」。
漢気一つで同作出演を快諾した石田。
ところが久しぶりのアクションに不安もあったという。
「一歩間違えると怪我しちゃいますからね。
それにしても高橋さんはすごかった。
もう本物のプロフェッシナルですから緊張しました。
でも久々に、気持ちを作って『役に入る』という経験ができたので、『俳優ってやっぱり面白いなぁ』ってあらためて実感しましたね」。
どんどん磁力に吸い寄せられるように、俳優の道に戻っていく石田。
今はコロナ禍のイレギュラーな時期だが、これから芸能活動を本格化させる気持ちはあるのだろうか?
「映画、ドラマにかかわらず、いろんな作品に出演したいなと思っています。
でも、農業は辞めたわけではありません。
上手に両立しながら一生携わっていきたい。
自然栽培の素晴らしさをできるだけ多くの方に知っていただきたいので、俳優という立場をフル活用して、発信していけたらと思っています」。
現在は特に時代劇に興味が湧き、居合(いあい)の稽古にも励んでいるという石田。
今後の活躍に乞うご期待だ。