欧米をはじめとする世界の国々では、冬の季節に突入したと同時に再び新型コロナウイルスの感染が拡大してきています。
アジアでもそれは例外ではなく、お隣の国の韓国では連日7000人以上の新規感染者を出しているのが現状です。

 

このところのマスコミ報道は南アフリカで発見された変異の激しいオミクロン株の話題で持ちきりですが、忘れてはならないことは今現在世界中で猛威を振るっているのはデルタ株だということです。
今後オミクロン株に移行した時にどうなるかについて今は別稿に委ねたいと思います。

 

ここでは現時点で問題となっているデルタ株の問題点を探りたいと思います。

 

韓国の感染状況を例にとってご紹介すると、韓国では連日の感染者数が7000人を超え過去最高を更新していますが、重症や死亡の80%以上が60歳以上の人たちで、60歳以上の陽性者の80%はブレイクスルー感染、すなわちこの年齢層の新規感染者の80~85%は接種完了しているとのことなのです(高麗大学感染内科金宇柱教授)。
これは由々しき問題です。
韓国政府はブレイクスルー感染が現在の感染状況につながっていると考えて、現状打破のためブースター接種の前倒しを表明しました。

 

ところで日本の現状はどうでしょう。
感染者数は激減していてほとんど収束に近い状態です。
そのためか厚労省は3回目接種を2回目接種から8カ月以上開けて実施するとしていますが、実はそのように決めた医学的な根拠は何もなく、ただ地方自治体が接種券の発行・発送とワクチン供給・輸送が(急に言われても)間に合わないからという行政管理上の理由のためからそうしているのです。

 

日本では高齢者以下のコロナワクチン接種のタイミングが遅れて夏の終わりから秋にかけて実施されたので、多くの活動的な世代ではまだワクチンが効いていてそのために感染者が少ない可能性が高いのですが、春ごろから接種を始めた高齢者のコロナワクチンの効果はすでに切れ始めていると考えられます。

「オミクロン株の感染性は高くとも毒性は弱いのではないか」というような議論がありますが、新型コロナウイルス感染の特徴は当初より高齢者で重篤化しやすく、若い人の多くは無症状もしくは軽症で治っていくということで、今に始まった話ではありません。
詳しくみれば若い人でも後遺症の問題は無視できないのですが、ここではこの問題は置いておきましょう。

 

問題は無症状感染者がウイルスを運び高齢者に伝播させる温床となっていること、そしてそのためには社会全体の感染をコントロールしなければいけないということです(自分は平気なのだから普通の風邪のような扱いにしてほしいと考える人がいるのは理解できないわけではありません)。
となるとデルタ株にせよオミクロン株にせよ感染の温床となりうる多くの人がブースター接種を受けることが大切なことに違いありません。

 

では日本が現在抱えているブースター接種の根詰まりを解決する打開策はないのでしょうか。
実はそれは簡単なことで、国によるワクチン供給の管理・統制体制をやめて、通常の医薬品卸業者への発注・受給体制に組み入れればいいだけのことなのです。
例えば新型インフルエンザワクチン接種が急務だった2009年のときも、接種順位が厳しく統制されていても通常の発注・受給体制で滞りなく接種が遂行されました。

 

問題はなぜ国が地方自治体を通してワクチン供給をする管理・統制体制をやめたがらないのかということで、おそらくは接種後のVRS(タブレット)への記録入力で接種状況を把握しておきたい、国の管轄下に置いておきたいという官僚統制体制を崩したくなという理由からだけなのです。
このままでは行政対応の手遅れのために第6波の感染が拡大して少なからず重症・さらには死亡者が発生する事態になりかねません。
対策の取り様で少しでも救える命があるのならば、できる限り最善を尽くさなければならないのです。

 

私が子供の頃はワクチンの集団接種は当たり前のことで、学校でもいっぱいワクチンを打った記憶があります。
当時は保健所にも集団接種のノウハウを知った人がいっぱいいたわけですが、いつからか集団接種は行なわれなくなり、今ではどうやって集団接種をしていたか知っている保健所職員もまったくいなくなってしまったようです。

 

コロナワクチンは国民全員接種を目指してきたわけですが、そうなると会場設定もスタッフの必要数も相当なことになると思います。
それではほかのワクチンでそのようなことがかつてあったのでしょうか。
例えばインフルエンザワクチンの接種率はどのくらいなのだろうかと調べてみたら、法定接種でもなんとちょうど50%ぐらいなのです。
英米の接種率が60-70%と高く、接種率でトップの韓国ではなんと90%にも届かんとする接種率です。
なお、法定接種というのは日本では主に高齢者を対象とした接種であり、一般の方に対する任意接種数はこの数字には含まれていません。
毎年のインフルエンザワクチンの生産量が2500万回分であることから推察すると国民全体では高々20-25%の接種率ということのようです。

 

ところで日本におけるインフルエンザワクチン接種の長い歴史を見ると、昭和50年代はなんと60-70%の接種率だったのが、ちょうど1990年代に極端に接種率が下がってそれからまた少しずつ回復して50%になっていたのです(いずれも法定接種)。
どうしてこういうことになったのかというと、それまでの予防接種では接種針を再利用していたのですがこのために肝炎ウイルス感染などが発生することがわかって、1994年に集団接種自体が中止となりワクチン接種が激減したのです。
ところがその結果として90年代には約800名の幼児がインフルエンザで死亡するという事態になり、個別接種に形を代えて徐々に復活を遂げてきたというわけです。

 

ワクチンで唯一地球上から姿を消したのは天然痘ウイルスです。
これは全世界の人がワクチンを打ったからです。
ワクチン接種が世界的に広がらなければ、ウイルスの撲滅はできないでいでしょう。
しかし多くのウイルスは撲滅を目指してはいないはずで、ワクチンを打つ目的が違います(個々人の感染予防のため)。
天然痘でどうしてそのようなことが成功したのか、今のコロナワクチンの接種状況(接種に反対する人が少なからず存在する)からは考えられませんが、人以外に感染の温床となる宿主動物がいなかったことも幸いしたかもしれません。

 

最後に迅速にコロナ接種を推し進められる打開策を一つ提唱します。
それは選挙投票場で投票と同時に接種を行うというものです。
一般的な投票場というのは、特に行列を作っているわけではないし、会場は体育館などで広さはそこそこあり、さらに好都合なことは本人確認も確実にできるからです。
投票率が50%なら単純計算では全国民の50%の人の接種がたった1日でできてしまうかもしれません(もちろん接種を希望するひとだけですが)。
その日だけは医師会員が仕事を休んで(もともと投票日は日曜日です)交代で全員が会場に張り付ていていたらいいし、誰かが強力に音頭を取ればできないことではないでしょう。

 

多くの人にワクチンを打ってもらうにはインセンティブは必要ですが、アメリカで実施した、お菓子を配るとかそういうのは必ずしも成功しなかったようです。
インセンティブもそうですが、不精な人には選挙の時に一緒にというのは悪くはないやり方です(来夏はまた参議院選挙があります)。
選挙とタイミングを合わせるのはなかなか難しいですが、必ずしも選挙投票時でなくても投票場を利用して似たような形式で実施することはこれからもありえる方法かもしれません。
日本全国でできないのであれば、一部の地方自治体で採用してもいいかもしれません。

ことコロナに関しては、感染者の早期発見と治療(もしくは隔離)が原則だとすれば、(検査に関しては)どこかの国のように「いつでも誰でも何処でも無料で」できるようになれば理想です。これは検査だけでなくワクチンも同様です。

 

アメリカでは街中のいろいろな接種会場をふらっと訪れて接種を受けることが可能でした。
接種会場は駅とか薬局とかショッピングモールとかにあったと思います。
こういうやり方は自由度が高い反面、接種に関しては自己責任も負わされていて、ワクチンの種類とか接種回数とか各個人が自分で考えて受けなければならなかったはずです。
それでも「いち早く多くの人が接種する」ことが最重要課題だとするなら、そのような方法を選択するのもありだったのではないでしょうか。
つまり、緊急時の対応と定期のワクチン接種は考え方がガラッと変わってもいいと思います。

 

とはいえ、実際のところはといえば、日本では難しいでしょう。
ブースター接種がなかなか進まない理由のもう一つにはワクチンの供給量が十分ではないこともありそうで、それならばそのことを正直に国民に情報公開して説明するべきです。
IT化が遅れていることも大きなネックとなっています。

 

なお、今回の投稿では触れませんでしたが、欧米では5歳から12歳の子供へのコロナワクチン接種が始まっています。
社会全体の感染抑制のためには有効な手段と考える専門家も多いのですが、日本ではどうするかの議論すら行われていません。

 

少なくとも学校や保育園などの集団生活の中でコロナ感染者もしくはその疑いがある子が発生した時にどう対処したらいいか(検査体制を含め)、学校や各施設に任せっぱなしにしておかないで、きちんと具体的な対処方法を文科省・厚労省なりがマニアルにまとめて公表すべきです。
このことでそれぞれの施設が頭を悩ませているのです。
早急な対応が望まれるところです。