早朝5時半過ぎ。
大崎駅近くにそびえるタワーマンションの駐車場から、須藤早貴容疑者(25)を乗せたワンボックスカーが姿を現した。
カメラのフラッシュが一斉に焚かれると、3列シートの最後尾に座っていたスッピンの早貴は、俯いて素顔を隠す。
その身柄は、羽田空港から午前7時30分発の南紀白浜空港行きの空路を使い、事件の舞台である和歌山県田辺市の田辺警察署に移送された。

 

3回目の命日を前に、“紀州のドン・ファン”事件が大きく動いた。
2018年5月24日夜、和歌山県田辺市の資産家・野崎幸助氏(当時77)が、急性覚醒剤中毒で変死していた事件。
4月28日朝、和歌山県警は野崎氏の3番目の妻・早貴を殺人などの容疑で逮捕した。

「1週間前の4月20日、和歌山県警捜査一課の捜査員10名が都内に入り、早貴の行動確認を続けていました」(捜査関係者)

 

事件発生当初から、最も疑わしかったのが、第一発見者の早貴だった。
野崎氏が死亡していたのは、自宅2階の寝室。
当日午後10時過ぎ、寝室に上がった早貴が、ソファで全裸のまま息絶えた野崎氏を見つけ、自ら119番通報している。

 

野崎邸には、東京から月に10日ほど通っている家政婦の女性も寝泊まりしていたが、夫婦水入らずの時間帯を捻出すべく、必ず自宅を離れる時間帯があった。
その日も家政婦は、午後4時頃から7時半頃まで外出。
つまり、早貴が野崎氏に覚醒剤を盛るには十分な、約3時間の空白が存在しているのだ。

「容疑者候補のアリバイを1人ずつ潰していき、その夜、自宅で野崎氏に覚醒剤を経口摂取させられたのは、自宅で2人きりだった妻しかないという結論に至った。
野崎氏に覚醒剤使用歴や自殺の可能性も認められない一方、押収した早貴のスマホから覚醒剤について調べた形跡も確認できた。
“凶器”の覚醒剤の入手経路についても、すでに早貴と関わった密売人を聴取済。あとはいつ逮捕するかだけだった」(同前)

 

事件から1年を過ぎた時点で、捜査当局はXデーを見据え、関係者の調書を次々と完成させている。
捜査に協力した野崎氏の知人もこう証言する。

「早貴のことを中心に聞かれました。
調書作成の際、検事さんから『もし裁判(公判)になったら同じことを証言してくれるか』と聞かれ、了承しました」

 

だが、そこからしばらく捜査は停滞。
別の捜査関係者が明かす。

「任意聴取の様子からも、早貴は徹底的に否認すると思われ、覚醒剤を入手したことが分かっても、その日、殺意を持って野崎氏に覚醒剤を摂取させたことを、どう立証するのか、公判の難しさも想定できた。
一方、現場がもたもたしている間に早貴が海外逃亡する可能性も出てきた。
状況証拠の積み重ねによる消去法だが、犯行が可能だったのは早貴しかいない。
そこで、昨年夏に就任した、前警察庁捜査一課長の親家和仁・和歌山県警本部長と警察庁が主導するかたちで、今回の逮捕に至ったのです」

 

当初は“入口”を詐欺容疑とする方針もあったが、いきなり殺人本件に。
それにはこんな舞台裏があった。

「早貴が知人から借りた5000万円を返してない金銭トラブルの立件も検討されたが、早貴の方も、逮捕される日に備えて、腕の立つ弁護士を雇い、入念な打ち合わせをしている。
別件で逮捕しても否認は目に見えており、殺人容疑で逮捕すれば、空港で弁護士が来る前に話を聞く時間も確保できる。
それなら最初から本件で行こうと」(同前)

 

裏を返せば、捜査当局はそれだけ殺人の立件に自信を持っているともいえそうだ。

 

2017年暮れ、知人の縁を通じて野崎氏と知り合い、翌2018年2月には入籍した早貴。
その頃、東京に住んでいた早貴は、結婚の条件として「月に100万円の小遣いをもらうこと」を上げ、野崎氏もこれを了承。
55歳年下の美女を娶り、周囲に戸籍を見せびらかすなどして3度目の結婚を大喜びした。
だが――。

 

野崎氏が経営していた会社の元従業員が語る。

「早貴が田辺の野崎邸で同居するようになったのは、4月に入ってから。
一日中スマホを見て過ごし、何もしない早貴を目の当たりにして、気の短い(野崎)社長は同居してすぐ『あの女はあかん。離婚や』と言い始めました。
お金のために一緒になったと言い切っていた早貴も動揺するでもなく、『それならしっかり慰謝料をもらうから』と。
亡くなる当時、社長はすでに別の女性にゾッコンになっていました」

 

死亡する直前の時期、野崎氏の会社内では、ある“事件”が起きていた。

「早貴が出演しているAV作品を、若い社員がネットで見つけたんです。
社長が死んだのは、ちょうどその話題で持ち切りになっていたさなかでした。
早貴はAV出演の過去が社長にバレたら、社長からたいした慰謝料が取れなくなると考えたんじゃないでしょうか。
早貴はファッションモデルという触れ込みでしたから」(同前)

 

セレブ生活に憧れて北海道から上京。
老資産家と入籍して105日で未亡人となった早貴は、さらに1000日余りを経て、夫殺しの容疑者となった。