世界中で新型コロナ感染症に対するワクチン接種の対象者が広げられている。

 

日本でも5月末、ファイザー製ワクチンの接種対象年齢が12歳以上に引き下げられた。
7月19日に行われた厚生労働省の専門家部会では、モデルナ製ワクチンについても12歳以上への引き下げが承認された。

 

このような動きが続くのは、変異株による若年者の感染が増えていることと、「子どもは感染しにくく、感染してもほぼ軽症で済む」という従来の状況が変わるかもしれないからだ。

 

ファイザー製のワクチン接種を世界一のペースで進めているイスラエルは、重症化リスクがある5~11歳の接種を決めた。
6月に複数の学校で子どもの集団感染が起きたことで12~15歳への接種を推奨しており、すでに10代の4割が1回目の接種を終えたという。

 

一方で、子どもの接種に慎重な国もある。
重症化リスクの高い成人の多くがワクチン接種を終えた英国では、健康な子どもが重症化する可能性は低いので接種のメリットが小さいと考え、推奨していない。

 

さまざまな情報があふれる今、子どもにワクチンを打った方がいいのか、子育て中の親や養育者は頭を悩ませている。
そこで、自治体の集団接種や自院でのコロナワクチン接種に携わる「駅前つのだクリニック」(東京都杉並区)の角田圭子院長に訊いた。

 

日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会では、「『新型コロナワクチン~子どもならびに子どもに接する成人への接種に対する考え方~』に関するQ&A」と題して、いくつかの疑問に回答している。
http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=379

 

その中のひとつ、
「健康な子(12歳以上)でもワクチンを受ける意義はあるのでしょうか?」との質問に対し、
「受ける意義はあると考えています。ただし、接種にあたってはメリットとデメリットを本人と養育者が十分に理解していることが大切であると考えています」と回答している。

 

そうしたことを前提に、角田院長はこう語った。

「新型コロナで、子どもの命が失われるのは極めて稀です。
ワクチンのメリットが大きい高齢者や大人たちへの接種を優先し、健康な子どもであれば、急ぐ必要はないと考えます。
まずは、子どもにかかわる大人が接種を進めるべきでしょう。

新型コロナのワクチンは、どのような効果と副反応があるのか、十分な説明を受け、その内容に納得した人が接種すべきです。
しかし、どれほどの人がそのリスクとベネフィットを理解し、判断できるでしょうか。
大人でさえ困難なのに、子どもは言うまでもありません。

新型コロナのワクチン接種には一定の副反応が伴いますが、短期的な有効性と安全性が示されている一方で、長期にわたる安全性などの情報は限られています。
そのような中、ワクチン接種に不安を覚えたり、消極的になったりするのは、ごく自然な感情だと思います。

ワクチン接種をせずにパンデミックが収束するのを願いますが、接種しなかったことで重症化することもあり得ます。
反対に、ワクチンを接種したことによって不利益を被るリスクもゼロではありません。

しかし、その両方を試すことはできませんから、最終的には各人の判断に委ねられます。
そこで、その時の感染状況やワクチンの供給、有効性の情報などを鑑みながら判断していくしかないでしょう」

 

「医師の立場からは、重症化のリスクがある疾患を持つ子や障害のある子は、かかりつけ医と協議したうえでワクチン接種を検討していいと思います。
健康な子でも、受験や就職活動を控える中学3年生や高校3年生の生徒は、接種することで移動の不安が減るなどの社会的なメリットがあります。
接種時の副反応は、医療者側の事前の準備によって、接種を受ける本人や養育者の不安を解消し、適切に対処できると考えています。

いずれの場合も、子どもの接種は、集団接種よりもきめ細かなケアがしやすい個別接種をお勧めします。
ただし、「接種しない」という選択肢も十分に配慮して進めていくべきです。
状況は刻々と変化していますので、常に情報のアップデートを心がけてください」(角田院長)

 

CNNによると、米疾病対策センター(CDC)は8月5日、新型コロナウイルスのワクチン接種を完了した人でも、ウイルスを他人に感染させることがあるとの見解を示した。

 

ワクチン接種によって、変異ウイルスであるデルタ株の重症化や死亡は防止できるが、感染を防ぐことはできなくなったとし、接種を済ませた人に対しても再び屋内でのマスク着用の義務付けを呼びかけている。

 

アメリカでは、早ければ今秋以降、12歳未満の子どもへのワクチン接種が計画されている。

 

今後、どれだけワクチンが普及するかは不明だ。
また、ワクチンの効果がいつまで続くかも不透明な中において、正しい情報に注視しつつ、理性的な判断と行動が求められるのに変わりはない。