情報解禁された8月30日夜からファンたちが歓喜の声をあげ続けている。
9月25日(土)21時からの『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の初放送に向けたアニメ『竈門炭次郞 立志編 特別編集版』(フジテレビ系)の一挙放送が発表されたからだ。

 

しかも、その内容が圧倒的だった。

9月11日(土)19時 第一夜 兄妹の絆、
12日(日)19時 第二夜 浅草編、
18日(土)19時 第三夜 鼓屋敷編、
19日(日)19時 第四夜 那田蜘蛛山編、
23日(祝)19時 第五夜 柱合会議・蝶屋敷編

と、これまでのストーリーを網羅するだけでなく、すべて9月の土日祝日ゴールデンタイムに放送される。

 

つまり、9月の土日祝日は10日間中6日にわたって『鬼滅の刃』が放送されることになり、しかも家族そろってみられる休日の19時台であることから、再び一大旋風を起こすことは間違いないだろう。

 

そう言い切れるのは、これまで制作サイドがファンとの信頼関係を築いてきた実績によるところが大きい。

 

今回放送するのはフジテレビだが、日本全国のファンたちから信頼を集めているのは、アニプレックス、集英社、ufotableの製作トライアングル。
ファンたちはこの3社がストーリーや描写に制約や規制が出ないように参加企業をギリギリまで絞り、クオリティファースト、ファンファーストを貫いてきたことを知っている。

 

その他でも、アニメ第1弾の放送前に特別編集版を劇場公開したり、できるだけ多くの人々に見てもらうために各20社超の放送局・動画配信サービスと提携したり、キャストとスタッフが出演する「鬼滅ラヂヲ」を配信したりなど、とにかくファンを喜ばせる仕掛けを続けてきた。

 

また、昨年10月、12月に地上波全国ネットのゴールデン・プライムタイムで初めて放送されたとき、当初「変に口を出しそう」「頼むから余計なことはやめてくれ」などと不安視されていたフジテレビも、徐々にファンの信頼を獲得。
深夜帯に声優陣が作品の魅力を語る1週間の帯番組、『めざましテレビ』との6日間コラボ、ufotable描き下ろしの新規提供イラストやスペシャルエンドロール、視聴者プレゼント企画などの試みは、ほぼ好評を博していた。

 

今回の放送でも、「浅草編」「鼓屋敷編」には、ufotableによる新アイキャッチ、新規メイキングエンドロール、新規提供バックイラスト、新作次回予告編。「兄妹の絆」「那田蜘蛛山編」「柱合会議・蝶屋敷編」には、ufotableが制作する完全新作の次回予告編。
「兄妹の絆」には、炭治郎の育手・鱗滝左近次によるナビゲート映像が新規制作されている。
もちろん「何度でも見たい」と思わせるufotableのアニメーションあってのものだが、それ以外にも楽しませる工夫を用意したことがファンの信頼につながった。

地上波、衛星、配信を含めて世界最速となる『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の放送にこぎつけたのも、全編完全ノーカットであることも含め、フジテレビがファンと作り手の希望を受け止め、信頼関係を築けたことを物語っている。

 

9月の盛り上がりを前に、ふれておかなければいけないのは、ファンを楽しませ続け、ブームの火を消さないための工夫と努力。
これが過去の作品では前例のないほど凄まじいものがある。

 

昨秋に『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の公開で火がついたブームは、年末に向けて加熱。
12月28日に『千と千尋の神隠し』を上回り国内興行収入歴代トップになったことが発表され、30日には『第62回 輝く!日本レコード大賞』(TBS系)でLiSAの主題歌「炎」が大賞を受賞したほか、中川奈美が「竈門炭次郞のうた」を歌い、31日には『第71回NHK紅白歌合戦』で「『鬼滅の刃』紅白スペシャルメドレー」が放送された。

 

年が明けたあたりから徐々に盛り上がりは落ち着きはじめていったが、しかし決して火が消えたわけではない。
各社とのコラボを絶え間なく続けながら『鬼滅の刃』ブームの火を灯し続けていた。

 

今年に入ってからのコラボを下記に挙げていくと、コメダ珈琲店、森永製菓「大粒ラムネ」、バンダイナムコ「ナンジャタウン」、NEC「LAVIE」、レノボ、アクセサリーブランド「Q-pot.」、スマホゲームアプリ「コトダマン」、アサヒ飲料「ドデカミン」、浜乙女「おにぎり専用のり」、東京ドームシティアトラクションズ、ヤマサ醤油「絹しょうゆ」、明治「おいしい牛乳隊」、ローソン、リアル脱出ゲーム、サントリー「自分防衛団」、PIZZA-LA、不二家「ミルキー」、進研ゼミ小学講座・中学講座、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン、セガ、日清食品「チキンラーメン&出前一丁」、無添くら寿司、LOTTE、NPB・Jリーグ・B.LEAGUE、マクドナルド「ハッピーセット」。

さまざまな商品ジャンルをカバーし、日常生活のシーンをカバーしていることがわかるだろう。

 

さらに、全集中展、ufotable描き下ろしのキャラクターバースデーイラスト、オーケストラコンサートなども仕掛けて、ファンたちが『鬼滅の刃』にふれる機会を確保し続けていた。

9月にも1日から「『鬼滅の刃』×浅草コラボイベント」がスタートし、26日まで限定グッズやフードが販売されるほか、『鬼滅の刃』陣旗が掲出され、浅草エリアをめぐるキーワードラリーなどが楽しめるという。

 

昨秋に『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』のメインキャスト・煉獄杏寿郎が燃やした炎を絶やさず灯し続けてきた上で、今年9月の再燃焼。
さらにその炎は、年内放送が発表済みのテレビアニメ「遊郭編」につながっていく。

 

キービジュアルでメインキャストの宇随天元が「こっからはド派手に行くぜ」と打ち出しているように、ここでもファンを歓喜させる演出やPRが見られるだろう。

 

ちなみに放送は、フジテレビ系列、TOKYO MX、BS11、群馬テレビ、とちぎテレビの全国30局と、各動画配信サービスでの公開が予定されている。

 

地上波のフジテレビ系列による放送が決まっても、TOKYO MXなどの独立局や、ネットの動画配信サービスを切り捨てず、「より多くの人々が好きなツールで見られるように」という方針を徹底。
やはり『鬼滅の刃』の作り手たちによるクオリティファースト、ファンファーストの姿勢はブレていない。

 

フジテレビとしても、25日の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』放送後に、「『遊郭編』の新情報や新キャスト発表などを担わせてもらっている」というからメリットは十分だろう。

 

前述した数々の努力もあって、コンテンツ全般におけるアニメ『鬼滅の刃』のポジションは文句なしの最高峰にいる。
とりわけテレビ業界におけるポジションは高く、オリンピックやサッカーワールドカップなどの世界的ライブイベントを除けば断トツのトップと言っていいだろう。

 

“国民的アニメコンテンツ”という意味では、日本テレビの『金曜ロードショー』におけるジブリ作品、『ルパン三世』、『名探偵コナン』と同じカテゴリーだが、『鬼滅の刃』の影響力は凄まじく、しかもまだまだシリーズの先は長い。

 

これは裏を返せば、それほどのコンテンツだからフジテレビは独占放送ではなく、独立局や動画配信サービスとの共存をちゅうちょなく選べるし、「放送のみ」という脇役のポジションを甘んじて受けられる。

高視聴率などのあまりあるメリットを考えれば、さまざまな条件を飲むことくらい何の問題もないはずだ。

 

また、作り手たちの優れたPR手法やクリエイティブマインドにふれたことで、フジテレビは民放各局が持つ時代錯誤なプライドを捨て去ることができたのではないか。

 

そもそもネットツールが普及し、生活に浸透した今、地上波の独占放送にこだわることの意義が薄れていることは民放各局も認めざるを得ないだろう。
事実、ドラマやバラエティは、地上波での放送のみではなく、自局系の動画配信サービスやTVerの活用事例が増えている。

 

しかし、自局系の動画配信サービスだけにこだわっていたら、視聴者数は限定的なものに留まり、どれだけ優れたコンテンツを作っても『鬼滅の刃』のように多くの人々に見てもらうことは難しい。

 

だからこそ今後はドラマやバラエティなども自信があるものほど、『鬼滅の刃』のように多数の動画配信サービスと提携する形が増えていくかもしれない。