東京電力福島第1原発から出た処理水の海洋放出が2023年8月24日午後、始まった。
廃炉を加速させる上で大きな節目を迎えたが、8月23日に新聞各社が掲載した社説では議論が分かれた。
具体的には、放出に理解を示す論調と批判的な論調で割れている。
ただ、批判的な論調の中にも放出を止めるように求めるものとそうでないものがあり、濃淡がある。
処理海洋放出をめぐっては、国際原子力機関(IAEA)が23年7月、日本の取り組みは「国際的な安全基準に合致している」とする報告書をまとめたことで環境整備が進んだとする見方がある。
一方で、政府と東京電力は15年、福島県漁業協同組合連合会に対して文書で「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」とする方針を示しており、この点との整合性も問題視されてきた。
在京一般紙のうち、放出に理解を示したのは3社。
読売新聞は
「放出を引き延ばす意味は薄く、迅速に対応したのは適切である」
とする一方で、
「処理水の放出は長期に及ぶ。政府には、安全性を繰り返し説明する努力が求められる」
などと政府の説明責任にも触れた。
産経新聞は
「政府は海洋放出を東電に丸投げすることなく、政府の責任で完遂してもらいたい」
とした。
日経新聞は
「漁業者の反対はあるが、福島の復興や廃炉を進めるには政治決断が必要だった。岸田文雄首相の判断を評価したい」
と論じた。
放出に批判的な朝日、毎日が共通して掲げたのは「責任」という単語だ。
朝日は「政府と東電に重い責任」の見出しで、
「政府と東電は内外での説明と対話を尽くしつつ、安全確保や風評被害対策に重い責任を負わなければならない」
と主張。
毎日は「誠意欠いた政治の無責任」の見出しで、「誠意ある対応を尽くしたとは言いがたい」と政府の対応を批判する一方で、
「処理水は今も日々90トンずつ増えており、このままでは廃炉作業の支障になりかねないのは事実だ。政府・東電には、計画を安全に遂行する重い責任がある」
とも論じ、放出の必要性にも言及した。
両紙とも明示的に放出の中止を求めることはしなかった。
東京新聞は、処理水を「処理水」とカギカッコつきで表現。
「海洋放出の実施については、まだまだ説明と検討が必要だということだ」
「拙速な放出開始は将来にさらなる禍根を残す」
と反対姿勢を鮮明にした。
政党の間でも立場は割れている。
自民、公明の与党と、野党のうち日本維新の会と国民民主党は、放出に理解を示す立場だ。
立憲民主党は放出をめぐって閉会中審査を求める考えで、長妻昭政調会長は8月24日午前の会見で、
「科学的には決着がついているというふうに思う」
とした上で、
「安全と安心というのは異なる概念。つまり風評被害のところ、これを心配しているというのが私どもの立場」
と述べた。
共産党、社民党、れいわ新選組は「汚染水」という用語を用いて、放出に反対してきた。