またしても……呆れるほかない発言と大批判を浴びての撤回だ。

 

「法務大臣というのは、朝、死刑(執行)のハンコを押して、昼のニュースのトップになるのはそういう時だけという地味な役職なんです」

 

岸田改造内閣で法務大臣として初入閣した葉梨康弘氏は9日、岸田派のパーティで自民党所属の若手議員を前にこう語った。
身内の席だから、少しおふざけを交えた自虐ネタを披露したつもりだろうか。
しかし、このような「人の命」にかかわる「ネタ」を笑う者は一人もいなかったという。

 

「葉梨法相は死刑執行の最高責任者。
そういう立場の人が、政治的に目立たぬ地味な仕事では選挙の役に立たないといわんばかりの物言い。
ハンコを押した後に、法の名の下に人命が絶たれるということを想像できないのだろうかと思いました。
どういうつもりであのような発言をしたのか神経を疑います」(自民党若手議員)

 

実はこの発言には続きがあった。

「今回は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に抱きつかれてテレビに映る機会が増えたが、法相になってもお金は集まらない。
なかなか票も入らない」

 

欲しいのは「テレビの露出と、金と票」とは……。
当初、マスコミの取材に対し謝罪、撤回を表明しなかったが、松野博一官房長官から官邸に呼び出され、厳重注意を受けた直後の参院法務委員会であっさり陳謝、発言を撤回した。

 

葉梨法相は、教育大附属駒場高校(現・筑駒高)、東大法学部から警察庁に入庁。
警察官僚時代に、衆議院議員だった葉梨信行の娘と結婚、さらに信行氏と養子縁組まで交わして葉梨姓になった。
茨城3区の選挙地盤を引き継ぎ、2003年に初当選、葉梨家三代目の世襲政治家になった。

 

現在、同じ経歴をもつ衆院議員は平沢勝栄元復興相と2人だけ。
レアな「警察庁出身」ということで自らの力を過大評価、立場を勘違いしているという声もある。

 

茨城県政の重鎮が言う。

「葉梨さんは茨城県警本部長室に来ると、応接のテーブルに足を乗せるんです。
足を上げて反り返って、県警本部長ら警察幹部と話をする。
県警幹部は、警察庁の先輩である葉梨に遠慮があるのかもしれないが、見てられません。
国が上で県が下。
茨城県民が見下されているように感じました。
今回の発言も、ご自身の立場を勘違いしたおごりや、市民国民を軽んじる姿勢からきていると思いました」

 

2009年の総選挙では、保守王国・茨城でまさかの落選をしている。

「茨城3区でも、取手、牛久、守谷といった都心に近い県南地域で葉梨は不人気で、票が取れません。
選挙になると、葉梨家3代の支援者のところばかりを歩く典型的な世襲自民党政治家なんです。
地元の評価はけっして高くない。
それにしても『法務大臣は金にもならない』とは、大臣の肩書きを政治商売の道具としか思っていないんでしょうか、呆れました」(同)

 

地元も呆れる発言、そして撤回と、今回の件でますます評価を下げた葉梨氏だが、そもそもなぜこんな人物が法務大臣という重要な役職を担うことになったのか。
その責任は当然、岸田文雄首相にある。

 

岸田政権のもと、政権継続のためならいくらでも発言を翻す「理念なき政治」がまかり通っている。
大臣ポストは金にならないと平然と言い放つ法相。
旧統一教会との関係を指摘され「知らぬ」「忘れた」と言い続けた山際大志郎元経済再生担当大臣。
事務所費不正疑惑の寺田稔総務相と秋葉賢也復興相両大臣。
差別発言を連発する杉田水脈総務政務官……。

 

11日昼すぎ、葉梨氏の辞任の意向が報じられた。
だが、彼ひとりが辞めて、それで済む問題ではない。