2022年9月9日に発売されたNintendo Switch向けソフト『スプラトゥーン3』がとんでもない売上を記録している。

 

任天堂の発表によると、発売後3日間で日本国内の売上が345万本を越えているというのだ(販売本数はパッケージ版とDL版の合算)。

 

これはNintendo Switch向けソフトの発売後3日間の国内販売本数として、過去最高の記録となる。
つまり、世界で最も売れているNintendo Switch向けソフト『マリオカート8 デラックス』(初週売上:推定約28万本/DL版含まず)や、説明不要の大ヒット作『あつまれ どうぶつの森』(初週売上:推定約188万本/DL版含まず)すらも超える出だしというわけだ。

 

そもそも多くのヒット作を生み出す任天堂が、わざわざ販売本数に関するプレスリリースを出していること自体が異例である。
「スプラトゥーン」シリーズはもともと人気のあるタイトルだったが、最新作はかなり多くの人に行き届いており、国内で大きなムーブメントとなる可能性もあるわけだ。

 

しかし、なぜ『スプラトゥーン3』になっていきなり火がついたのだろうか。
この記事では、その理由を4つの要素で解説する。

 

「スプラトゥーン」シリーズの初代作品はWii Uで発売されたが、売上はそこまで振るわなかった。
発売から約1ヶ月で世界累計販売本数が100万本を突破し、最終的には全世界で495万本を記録している。

 

新規タイトルであることを考えるとこれでも十分に健闘しているが、そもそもWii Uがあまり売れていない問題があった。
Wii Uは全世界の累計販売台数が1356万台にとどまっており、どれだけおもしろいゲームであったとしても爆発的には流行りようがなかったのである。

 

続編となる『スプラトゥーン2』もまたゲーム機に関連する問題があった。
本作は2017年7月21日に発売されたのだが、そのころはNintendo Switchが発売されてまだ4ヶ月ほど。
かつ、品薄状態になっていたのでまだNintendo Switchが普及しきっていなかった。

 

『スプラトゥーン2』自体は最終的に国内で500万本、全世界累計で1330万本を超えるヒット作になったわけだが、発売直後の大きな盛り上がりをうまく利用しきれなかったのも否定できない。

 

そして、『スプラトゥーン3』は2022年9月9日発売である。
Nintendo Switchは2022年6月末時点で1億1108万台を突破しており、まさしく機が熟した状況にあった。

 

前述のように「スプラトゥーン」シリーズは作品を重ねるごとに着実な人気を得てきていた。
そのうえ普及しきったであろうNintendo Switchで新作が出たわけで、爆発的なヒットに繋がる環境が整っていたというわけだ。

 

「スプラトゥーン」シリーズは、ヒトの姿に変身するイカやタコを操作する対戦アクションシューティングゲームである。
これは海外では「シューター」と呼ばれるジャンルで、いわば銃で撃ち合って戦うゲームなわけだ。

 

しかし、初代『スプラトゥーン』以前は、日本にあまりシューターが馴染んでいなかった。
コアなゲーマーは遊ぶものの、普段あまりゲームに触れていない人は避けたがるジャンルで、任天堂はそのジャンルに果敢にも挑戦したわけだ。

 

初代『スプラトゥーン』のおかげでシューターに興味を持つ人が増え、その後は『フォートナイト』や『Apex Legends』などバトルロワイヤル系シューターが日本でも流行した。
もはや、「日本人はシューターを遊ばない」と言われる時代は完全に終わったといえる。

 

そのような状況下で、日本国内において大きな存在感を持つ「スプラトゥーン」シリーズの最新作が登場したわけである。
シューターの味を知った人たちがこのゲームに飛びつくのは当然であり、その様子を見て興味を持った人が新規参入するのも道理である。

 

「スプラトゥーン」シリーズはキャラクターものとしても人気がある。
ぬいぐるみ、子供向けの弁当箱やバッグ、ゲームに登場する水鉄砲、バスボムや衣類なども販売されているし、セブン-イレブンでコラボ食品が販売されたり、過去作ではサンリオのキャラクターともコラボをしている。

 

そして「スプラトゥーン」の世界設定はかなり作り込まれており、おまけにユニークだ。
イカたちはストリートファッションでカッコよくキメているし、明るい色のインクを撒き散らして街中を塗りつぶす。
珍しくありつつも、ゲームのルールにぴったりとあった世界なのだ。

 

『スプラトゥーン3』では「バンカラ街」という場所が舞台になっており、九龍城砦を思わせるごちゃごちゃとした高い建物が並ぶカオスな街並みが特徴となっている。
そこで開催される「フェス」では、山車が街中を練り歩き、和とラテンが融合したかのような音楽が流れていたりと、ほかのゲームにない唯一無二の魅力となっている。

 

実は前作『スプラトゥーン2』では、プレイヤーに「混沌」か「秩序」のどちらかを選ぶ権利が与えられていた。
結果として混沌側が選ばれ、それが『スプラトゥーン3』に引き継がれて作風に影響を与えている。
つまり、ユーザーもまた一緒になって「スプラトゥーン」の世界を作ったという感覚が存在するのである。

 

「スプラトゥーン」シリーズは対戦アクションシューティングである。
4対4で各プレイヤーがインクを塗り合って戦い、勝敗を決めるわけだが、『スプラトゥーン3』ではその対戦以外の要素も非常に充実している。

 

対戦の練習にもなり物語も魅力的なひとり用モード「ヒーローモード」、仲間と協力してシャケを狩るアルバイト「サーモンラン」、バンカラ街で流行しているカードゲーム「ナワバトラー」、そしてロッカーに雑貨を飾ったりするカスタマイズ要素も存在する。

 

実は、対戦ゲームで対戦以外の要素を充実させるのはかなり重要である。
たとえば2023年にカプコンから発売が予定されている『ストリートファイター6』もシリーズ初の充実したひとり用ストーリーモードを用意しているし、バトルロワイヤル系シューターの『Apex Legends』もキャラクターの物語・設定に注力している。

 

勝ち負けを決める行為はストレスが溜まるため、忌避する人も少なくない。
ゆえに勝負ではないそのほかの要素を充実させれば、より多くのプレイヤーを取り込める可能性が増えるわけだ。

 

もっとも、対戦以外の要素を充実させた結果として対戦モードがだらしなくなってしまっては困るのだが、『スプラトゥーン3』は過去作で積み上げたものをうまく活用しているので問題ない。

 

Nintendo Switchが売れに売れている“環境”、日本人のシューター慣れという“理解”、キャラクター・世界設定という“親しみやすさ”、そして対戦以外のモードを充実させる“幅の広さ”の4つが揃ったからこそ、『スプラトゥーン3』は爆発的に売れているのだろう。

 

ただし、ひとつだけ注意点がある。今回はあくまで「日本国内」の売上がすごいのであって、世界規模の話ではない。
「スプラトゥーン」シリーズは、シューターにあまり馴染みがなかった日本で出したからこそ強く響いたわけで、もともとシューターに慣れている国ではそこそこの人気に落ち着いているからだ。
ほかのタイトルと比較すると、日本・海外での売上比率が日本に偏っているのがわかる。

 

たとえば『あつまれ どうぶつの森』は日本では約1000万本、海外では約3000万本売れており、比率は1:3になる。
一方、『スプラトゥーン2』は日本で約500万本、海外で約830万本と、比率は1:1.66だ。
特に日本での人気が高いシリーズなのは間違いないだろう。

 

ゆえに『スプラトゥーン3』が『マリオカート8 デラックス』や『あつまれ どうぶつの森』の世界累計販売本数を抜くかは微妙なのだが、しかし『あつまれ どうぶつの森』が打ち立てた「日本国内で最も売れたゲーム」の記録を抜く可能性は十分にある。
2022年の日本では、イカやタコがインクを塗りまくるブームが来るのかもしれない。