ジャニーズ事務所は29日、ジャニー喜多川前社長の性加害問題に関して調査してきた、再発防止特別チームの報告書を公表した。

 

報告書では、性加害について「ジャ ニー氏によるジャニーズ Jr.の思春期少年に対する性加害は、長年にわたり広範に行われていたことは紛れもない事実である」と、性加害について「紛れもない事実」と断定した。

 

報告書のポイントは以下の通り

 

林真琴・前検事総長を座長とする特別調査チームは、被害者及びジャニーズ事務所関係者等、41人からヒアリングした。

 

報告書では2ページにわたり
「体マッサージされて口腔性交された」
「体をマッサージされ、さらにキスと口腔性交された」
「合宿所でジャニー氏から「YOUも寝なよ」と言われて寝ていると尻を触られたが、寝返りを打って払いのけた」
など、ヒアリングの結果が記されている。

 

その上で「古くは1950年代に性加害を行って以降、ジャニーズ事務所においては、1970年代前半から2010年代半ば までの間、多数のジャニーズJr.に対し、上記のような性加害を長期間にわたり繰り返していたことが認められる」「ジャニー氏は、少数のジャニーズJr.に特定して性加害を行っていたわけではなく、多数のジャニーズJr.に対して広範に性加害を行っていた」と事実認定した。

 

報告書は、こうした性加害が起きた原因として
「ジャニー氏の性嗜好異常」
「メリー氏(ジャニー氏の姉で『事務所の実質的最高権力者』だった)による放置と隠蔽」
「ジャニーズ事務所の不作為」
「被害の潜在化を招いた関係性における権力構造」
の4つを取り上げた

 

報告書はジャニー氏について、ヒアリングなどの中で「あの人は天才です」という言葉が聞かれた事を取り上げ、「ジャニー氏の芸能プロデューサーとしての傑出した才能は、芸能界関係者から遍(あまね)く認められているところ」としている。

 

その上で、「元ジャニーズJr.がジャニー氏による性加害に遭った時期は、1970年代前半から 2010 年代半ばまでの間に万遍なく続いており、しかも同時期に多数のジャニーズJr.が被害を受けていたことも証言からあきらかとなった。したがってジャニー氏によるジャニーズJr.の思春期少年に対する性加害は、長年にわたり広範に行われていたことは紛れもない事実である」と認定した。

 

ジャニー氏自身が「20 歳の頃から80 歳代半ばまでの間、性加害が間断なく頻繁かつ常習的に繰り返された事実は、ジャニー氏に顕著な性嗜好異常(パラフィリア)が存在していたことを強く裏付けるもの」とし、この異常な嗜好が「根本原因」だとしている。

 

報告書は次に、ジャニー氏の姉であるメリー喜多川氏による「放置」と「隠蔽」が原因だとしている。
メリー氏はジャニー氏の4歳年上の姉で、「ジャニー氏が2歳のときに母親が他界してからは、メリー氏は母親代わりとなって末弟のジャニー氏に愛情を注いでおり、両者の関係は姉弟というよりも母親と息子のようであったことは多くの関係者が述べている」と記載している。

 

報告書は、メリー氏がジャニーズ事務所の「実質的最高権力者」と紹介した上で「性加害疑惑に対しては一貫して否認する態度を貫いていた」としている。

 

しかしヒアリングの結果、メリー氏が生前、ジャニー氏の性嗜好について「病気だから」と話していたとの証言が複数得られた事から、「メリー氏は遅くとも1960 年代前半には、ジャニー氏の性嗜好異常を認識していたとするのが蓋然性の高い事実である」と認定した。メリー氏がジャニー氏の性加害を認識しながら止めなかった事で、「外部に対してはジャニー氏を守り切るために徹底的な隠蔽」を図ってきたとしている。

 

報告書は「メリー氏が何らの対策も取らずに放置と隠蔽に終始したことが、被害の拡大を招いた最大の要因である」と厳しく断じた。

 

ヒアリングの結果から、ジャニー氏による性加害は「芸能界では周知の事実」になっていたと認定した。
しかしヒアリングでは、被害者が事務所スタッフに相談をしても「デビューしたければ我慢するしかない」「我慢すればいい夢が見られる」などと言われたとの証言が得られたという。

 

報告書は「長年にわたり性加害を続けていたことは、ジャニーズ事務所にも概括的には認識されていたと考えるのが合理的」と認定した。
しかし「それに対してジャニーズ事務所は「見て見ぬふり」に終始し、何らの対応もしないどころか、むしろ 辛抱させるしかないと考えていたふしがある。このような長年にわたるジャニーズ事務所としての不作為も被害の拡大を招いた大きな要因となったと考えられる」と指摘した。

 

ジャニー氏がジャニーズ事務所のトップとして、タレントたちの生殺与奪を握っていた権力構造も、性加害が起きた原因の一つとされた。

 

報告書は「経営トップでもある芸能プロデューサーたるジャニー氏が、未成年のジャニーズJr.の生殺与奪の権を握る絶対的な立場を利用してジャニーズ Jr.に対する性加害を行っており、ジャニーズ Jr.がそれを拒むことも、また、被害者として相談・告発することも極めて困難であった」としている。

 

報告書はさらに、性加害事案が起きてしまった背景についても書いている。

 

1つは「同族経営」だ。
「創業者たる経営者による違法行為等が行われた場合には、誰もそれを止めることができないという、同族経営の弊害が前面に出る」として、ジャニーズ事務所については「その問題が顕在化したパターン」と指摘した。

 

また、事務所に生殺与奪を握られたジャニーズJr.の弱い立場、さらに取締役会がまともに開かれず、取締役会が性加害を行ったジャニー氏を止める事が出来なかった「ガバナンスの脆弱性」も指摘された。

 

ジャニー氏の死去後についても、経営を受け継いだ藤島ジュリー景子社長をはじめとする経営陣は「性加害の事実を徹底的に調査し、原因を究明し、その再発防止を図るとともに、被害者に対する救済を行い、もって、膿を出し切る義務を負っていた」が「これらの措置をとることはなかった。したがって、その任務を懈怠したというほかない」と厳しく指摘した。
こうした取締役の機能不全に加えて、「基本的な社内規定」「内部通報制度の不十分さ」「ハラスメントに関する不十分な研修」も指摘されている。

 

報告書は、ジャニー氏の性加害問題について、「多くのマスメディアが正面から取り上げてこなかった」と指摘した。
さらに、「テレビ局をはじめとするマスメディア側としても、ジャニーズ事務所が日本でトップのエンターテインメント企業であり、ジャニー氏の性加害を取り上げて報道すると、ジャニーズ事務所のアイドルタレントを自社のテレビ番組等に出演させたり、雑誌に掲載したりできなくなるのではないかといった危惧から、ジャニー氏の性加害を取り上げて報道するのを控えていた状況 があったのではないかと考えられる」とした。

 

その上で「ジャニーズ事務所は、ジャニー氏の性加害についてマスメディア からの批判を受けることがないことから、当該性加害の実態を調査することをはじめとして自浄能力を発揮することもなく、その隠蔽体質を強化していったと断ぜざるを得ない」と断じた。

 

報告書は再発防止策を提案するに当たり、「本事案の本質」をまとめている。ジャニー氏の性加害については「極めて悪質な事件」と断じて「ジャニー氏による性加害のために肉体的・精神的苦痛を受けるとともに、 アイドルへの道を閉ざされることになってしまった被害者の悲痛・苦悩は察するに余りある。日本有数の大手芸能事務所として数多くの人気アイドルタレントを輩出し、マスメディアを通じて大きな社会的影響力を有するジャニーズ事務所が性加害の事実に誠実に向き合わなかったことの責任は、極めて重大である」と指摘した。

 

その上で、被害者の救済制度を設けること、人権を尊重する企業方針を設定すべきとしている。
さらに性加害やハラスメント研修、タレントへの研修を行うべきとしている。

 

再発防止策の目玉が、現在の代表取締役であるジュリー社長の辞任だ。
報告書は、問題に対して十分に対処してこなかったと認定したジュリー社長を辞任させ、「解体的な出直し」をするとともに、問題が起きた背景として指摘された同族経営の弊害も同時に防止できるとした。
その上で取締役会の活性化や社外取締役の活用なども提言している。

 

報告書は最後に、提言を積極的に受け入れる事で「再出発」を果たして頂きたいと呼びかけている。
さらに「エンターテインメント業界に性加害やセクシュアル・ ハラスメントが生じやすい構造が存在しているのであれば、単に一企業体として『再出発』するというだけでなく、ジャニーズ事務所が率先して積極的にエンターテインメント業界全体を変えていくという姿勢で臨んでほしい」と述べた。
再出発が一企業にとどまるものではなく、業界全体の変革に繋がって欲しいとの期待で、報告書は結ばれている。