SNSの連絡先やアカウントを一方的に消す「人間関係リセット症候群」になる若者が増えている。

 

成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「SNSだけで交流する相手が増えすぎて、安定的な人間関係を維持できるキャパシティーを越えることが、大きなストレスになっているのではないか」という――。

 

年末年始休暇が終わり、新年が始まったことで、ストレスを覚えている人は多いようだ。
Twitterを「リセットしたい」で調べると、実に多くの人がストレスを抱え、リセット願望を抱いていることがわかる。

 

「LINEとかインスタとかすべてのSNSを消して人間関係をリセットしたい衝動に見舞われている。
友だちがいなかったら、落ち込む原因の劣等感が減る気がする」

「数年に一度、ストレスが極限までいくと何もかもリセットしたい衝動に駆られる。
今日久しぶりに出て、趣味のアプリやYouTubeやアマプラや趣味のTwitterアカウントも全部消した」

「LINEは何回消したかなというくらい消してきた。
友だちを振り回しちゃう申し訳なさもあるけれど、リセットしたい衝動のほうが強い」

 

行き詰まった時、いろいろとうまくいかない時に、まっさらな状態からやり直せたらと感じることがある。
ラノベなどで転生モノが流行するのも、リセット願望がある人が多いためだろう。

 

自分自身はゲームのようにリセットできないが、代わりに環境や人間関係をリセットする。
その中には、SNSアカウントも含まれる。
それが「人間関係リセット症候群」だ。

 

「友だちがいきなりSNSから消えていた。
今でも時々、なぜ消えたのか気になることがある。
元気にしていてくれたらいいけれど……」と、ある女性は話す。

 

大学時代の友だちはLINEだけでなく、Twitterのアカウントも消していた。
その結果、完全に連絡が取れなくなったそうだ。

 

「自分が何かして怒らせたのかと悩んでいたけれど、共通の友だちに聞いたら、自分の前からだけでなくみんなにも何も言わずに消えていたらしい。
あんなに親しかったのに、と悲しくなったし傷ついた」

 

引っ越しや転職、進学、就職などをきっかけに連絡を絶つのは昔からよくあることだが、前述のように、周囲からはきっかけもわからず突然消えてしまうこともある。
中には電話番号まで変えてしまう人もいる。

 

それだけでなく、SNSのアカウント削除、LINEの友だち削除、連絡先消去などをするため、まったく連絡が取れない状態となるのだ。

 

排除する人間関係は、親しくない人はもちろん、親しい人も含まれる。
親しかった場合は特に、自分が悪かったのか、何とかできなかったのかなど、悩む人も少なくない。

 

筆者の周りにも、SNSで突然消えた人が何人もいた。
「やめます」と宣言して消えた人、「友だち全削除します」と言って実行した人、定期的に何度も繰り返す人。
すぐに戻ってきた人もいたが、二度と戻ってこず、連絡が取れなくなってそのままの人もいる。
結局、SNSに戻ってきた1人は「疲れたから。いろいろと悩むくらいなら、もうSNSは使わなくてもいいかと思って」と振り返る。
本人曰く、追い詰められていっぱいいっぱいになった結果だという。

 

「友だちを一人ひとり削除しようと思ったけど、選ぶのもストレスだし、後でもめるくらいなら自分がいなくなった方がいいと思って。
削除したらめちゃくちゃすっきりして、何で悩んでいたんだろうというくらい、気分がよかった」

「でも、問題ないんじゃない」と首を傾げながらいう。

「中途半端な関係でつながっているより、付き合いたくないなら切ればいい。
どうせネットで知り合った同士だし、相手も気にしていないんじゃないかな」

 

現実世界では関係性には濃淡があったり曖昧なものだが、SNSではつながるか切れるかの二択だ。
また、SNSではブロックしたり切ったり、友だち関係は容易に整理することができる。
SNSというツールに引っ張られて、曖昧な関係を考えられなくなっているのではないか。

 

たとえアカウントを復活させても、完全に元に戻るわけではない。
復活したアカウントに友だち申請する人もいるが、「あっちが勝手に消えたんだから」と申請しないで距離を置く人もおり、結果的に友だちリストの一新につながっている。

 

かつてLINEの「ブロック大会」が流行したことがある。
ブロック大会とは、「友だちを整理します。この後もつながりたい人はこの投稿にスタンプを押してください」などと投稿し、スタンプを押さなかった人をブロックするという友だち整理術だ。
友だちでい続けたい人とのみつながることができ、交流がなくなった人とのつながりをなくすことができるのだ。

 

「投稿を無視されるのも不快だし、いきなり切られたりブロックされたりしたら腹が立つ。そういう人はこちらから切る」と言い切った人がいた。
「自分は友だちの投稿は全部見てリアクションしているのに、交流がなかったら友だちでいる意味がない」

 

ブロックされたり、友だち関係を切られたりするのは大きなストレスだ。無視されるのもうれしいことではない。
切られるくらいなら自分で切りたい、人間関係をコントロールする側になりたいという意識が働いた結果、このような行動に出ているのだ。

 

快適な人間関係が保て、自分だけはいつも傷つかないで済むが、周囲から見ると自分勝手に周囲を振り回す人とも見える。

 

今の時代は、人間関係がリセットしやすい条件がそろっている。
若者はSNSでのみつながっており、親しくても電話番号やメールアドレスなどを知らないことも多い。
SNSで友だち削除やフォロー解除をしたり、アカウントを作り直せば、もう連絡を取ることもできなくなるのだ。

 

コロナ禍で人間関係がオンライン中心になったことも大きかっただろう。
人類学者ロビン・ダンバーが提唱した「ダンバー数」によると、人が安定的に関係を維持できる人数は150人と言われる。

 

ところが、学校や会社などに行く機会が減り、SNSでのみつながり、オンラインで交流する相手がこの数よりも増えたことで、疲れることも増えたのではないだろうか。

 

われわれはさまざまなSNSで多くの人とつながり、いつも誰かに見られ、評価され続けている。
従来の人間関係なら、気まずくなったり親しくなくなれば、自然消滅ができた。
ところが、SNSでは積極的に関係性を切らない限り、人間関係は切ることができない。

 

ブロックやフォロー解除などはできるが、恨まれることもあり、切ることもストレスになる。
フォロー数がある程度以上になると、一人ひとりどうするかを判断するのも負担が大きい。
そこで、自分がアカウントごと消えて作り直したほうが早いと感じて、リセットしてしまうのではないか。

 

追い詰められて苦しむくらいなら、リセットするのもいいだろう。
しかし、人間関係というのは、けんかなども繰り返し、良いときも悪いときも含めて付き合い、築き上げていくものだ。

 

安易にリセットを繰り返すと、いざというときに頼れる友だちがいなくなり、孤独に陥ってしまう可能性が高い。
リセットという選択肢を選ぶ前に、仲直りをしたり、人間関係を再構築することにもトライしてみてほしい。