これは詐欺師による復讐譚か、それともひとりの人間の成長を見届けるヒューマンドラマだったのか。

 

12月23日に最終回を迎えたTBS系金曜ドラマ『クロサギ』は、物語のグラデーションが際立った内容だった。
主人公・黒崎高志郎(King & Prince・平野紫耀)が最終回で見せた姿には、本作を見守ってきた視聴者にとっては成長の跡を感じずにはいられなかった。

 

父親が遭った詐欺によって家族が崩壊し、「詐欺師を騙す詐欺師=クロサギ」となった黒崎の復讐劇は、父を騙した詐欺師・御木本(坂東彌十郎)に続き、父を破産に追いやった宝条兼人(佐々木蔵之介)へと展開していった。
現在はひまわり銀行で経営企画部門・執行役員を務める宝条は強敵で、前話までのストーリーの主軸は、宝条(佐々木蔵之介)を詐欺で絡めとり“喰おう”と奔走するクロサギと、それをなりふり構わず潰そうとする宝条の対立構造。
その戦いに、さまざまな関係者が水面下で加わっていくのだが、黒崎がこれまで出会ってきた人たちが黒崎の劣勢を助けていく……という最終回だった。

 

中でもキーパーソンとなったのはやはり、詐欺師界のフィクサー的存在であり、黒崎を詐欺師として仕込んできた“育ての父”桂木敏夫(三浦友和)だ。
第9話では、宝条の差し金で逮捕された黒崎をすぐに釈放させるものの、宝条は桂木にとってマネーロンダリングを担う重要人物でもあり、黒崎は「宝条と組んでるかぎり、あんたの命令はもう聞けない」と決別を宣言していた。

 

だが、やはり桂木にとって黒崎は特別な存在だったようだ。
「宝条を狙えば、あいつの周りのドでかい奴らまで敵に回すことになる。次は逮捕じゃ済まないぞ」と警告していたのも、黒崎の身を案じていたからだった。
最終回では、裏で早瀬(中村ゆり)を送り込ませ、宝条が送り込む刺客から黒崎の命をひっそりと守り、“宝条喰い”をサポートしていたことが明らかになる。
さらに白石陽一(山本耕史)にも協力を要請し、黒崎の“弱点”となりうる氷柱のボディガード役となるよう手配していた。

 

宝条が逮捕されれば、桂木にとってもダメージになる。
それでも桂木は、黒崎のために行動した。
黒崎の父が一家心中をし、ひとり残った黒崎を引き取った桂木は、あえて自分が御木本の詐欺の「設計図」をつくった敵であることを知らせ、自分を憎ませることで黒崎に生きる目的を与え、大人になるまで見守ってきたのだった。
そして宝条と黒崎の対立も避けようとしてきたが、黒崎にとって避けられない戦いであることを理解し、危うい黒崎を陰ながらサポートすることを決めたのだろう。
詐欺を生業にする桂木にとっては非合理的な判断だが、そこには師弟という関係を超越した“親子”としての愛があったのだ。

 

それを証明するハイライトは、最終回の見どころであった“宝条喰い”よりも、印象深いものだった。
政治家・蒲生(秋山菜津子)への軍資金調達のため、銀行で保有する国債に手をつけてまで融資を取り付けようとする宝条を、クロサギは海外ファンドを2社用意する“二重トラップ”で見事に騙し抜いた。

 

しかし、その帰路で蒲生の秘書・浦川(細田善彦)に刺されてしまい、クロサギは生死をさまよう。
見舞いに訪れた桂木は何を語るのか。
視聴者の注目が集まるなかで口にしたのは、我が子への巣立ちの言葉だった。
「ここからはお前の人生だ。自由に生きろ。俺を殺したければ追ってこい」と伝え、眠るふりをする黒崎の頭を不器用な手付きでそっとなでる。
桂木の寂しげな表情から察するに、自身がクロサギ誕生の一因となり、黒崎に苦しい道を歩ませてしまった自責の念、そして血のつながらない“大事な息子“との別れを惜しんでいるように思えた。

 

エンディングに「黒崎の旅はつづく」とあったが、黒崎が桂木を狙うことはないだろう。
直接手を下したわけではないにせよ、御木本を自死に追い詰めたことを悔やんでいた様子の黒崎は、宝条を見事だましたあと、「お前は生きて償え」と宣告していた。
一家心中の過去に囚われ、止まっていた黒崎の時間は、ようやく動き出そうとしていた。

 

黒崎が世に巣食う“悪”を喰いつぶしていくストーリーだったが、2006年の山下智久主演版と異なり、原作が完結した上で「完全版」として展開された今回の『クロサギ』が伝えたかったのは、“社会に悪は存在し続ける”という不条理さだろう。
桂木が黒崎に言った「宝条の代わりは、またすぐ現れる。もしかすると、宝条のような人間がいるから、この社会は成り立っているのかもしれないな」。
そして黒崎が氷柱に伝えた「『法律が人を救える』 お前のその言葉、俺はやっぱり信じられない」。
人々を苦しめる悪が消滅することはなく、真っ当な方法で対抗することも難しいのかもしれないという現実。
それは最終回の最後の最後まで不変のものだった。

 

それでも、ラスト1分に氷柱に送られたエールは未来への希望だった。
「だけど、お前がホントにそう思ってるなら証明してみせてほしい。検事になって、俺とは違う戦い方で。もしそんな日が来たら、それはクロサギがいらなくなる日だから」。
最後のこの言葉は、法の力をもう一度信じてみたいという気持ちであり、一方でその日が来るまではクロサギとして世直しを続ける意思表示にも受け取れる。
黒崎は最後まで本心を読み取らせない超一流の詐欺師だった。
だが、氷柱の前から姿を消す直前に吉川家で見せた笑顔、そして6年後に検事となった氷柱の背中を見届けた優しいほほえみは、過去の呪縛からようやく解き放たれた黒崎高志郎というひとりの青年の素顔がのぞき、彼の成長もまた感じられたように思う。
まさにドラマ『クロサギ』ここに完結、といった大団円の結末だった。