お盆だというのに、その観光地を歩く人の数はまばらだった。
むなしく街に響くカモメの鳴き声。遊覧船も運営する、飲食店の女性従業員が嘆く。
「かき入れ時なのに、商売あがったりです……。
例年なら、この時期は観光客の車で渋滞になります。
それがお客さんが定員に満たないため、やむを得ず遊覧船を運休することも頻繁にあるんです。
新型コロナと、あの事故の影響ですよ」
あの事故――。
今年4月に北海道の知床半島沖で起きた、遊覧船「KAZU 1(以下、カズワン)」の沈没事故だ。
犠牲となったのは乗客乗員26人。
いまだに10人以上が行方不明のままだ。
「カズワン」の運航会社「知床遊覧船」は6月に、国土交通省・北海道運輸局から事業許可取り消しの行政処分を受けた。
斜里町ウトロ漁港近くにある事務所を訪ねると、シャッターが閉まり人の気配がない。
脇にはゴミが放置され、廃墟となっていた。前出の従業員が語る。
「夏前でしたかね。
看板を撤去し、事務所を引き払ったようです。
ただ(桂田精一)社長(59)は、事故後私たち地元民へ正式に謝罪をしていません。
街に大きなダメージを与えながら、本当に腹立たしいです」
漁港で話を聞いていると、事故の伏線となるような裏切り行為を桂田社長が行っていたこともわかった。
「知床遊覧船」の元従業員A氏が語る。
「確か昨年5月のことでした。
ウトロの遊覧船業者が集まって、新型コロナが感染拡大しているから運航を中止しようと決めたんです。
お客さんが減っていましたからね。
それなのに桂田社長は協定を破って、『船員の練習のため』という名目で強引に船を出していたんですよ」
A氏は「知床遊覧船」を辞め、別の運航会社で働いていた。
「知床遊覧船」が協定破りをしていた時、たまたま街のコンビニで桂田社長と鉢合わせる。
「私は社長を問い詰めました。
『おかしいんじゃないか』と。
すると『宿がヒマでやることがないんだ』と言い訳をしていました。
どうやら桂田社長が経営するホテルで、遊覧船とパックのツアーを宿泊客に提供していたようなんです。
しかも、『練習のため』と船を操縦していたのは経験不足の船員ですよ。
危険極まりないでしょう。
4月の悲惨な事故は、起こるべくして起きたんです」
桂田社長から話を聞くべく自宅に向かった。
対応したのは、20歳以上年下と言われる夫人だ。
取材を申し入れた手紙を渡すと、言葉少なに「はい」と答えたが8月13日午前10時現在返信はない。
北海道運輸局への陳述書では「国にも責任」と記した桂田社長。
自分だけが悪いのではないと、主張したいのだろうか。
遺族への補償は、遅々として進んでいないという。