新規感染者数の減少に歯止めをかける“新しいオミクロン”への置き換わり。
さらなる感染拡大で懸念されるのが、深刻な後遺症だ。
「かかっても軽症だから、の油断は禁物」と専門医は語る――。
「今後、新規感染者数の“下げ止まり”や“増加”が懸念されます。
その要因として、オミクロン株がさらに感染力の強い変異亜種『BA.2』系統のウイルスに置き換わっていること。
そして3回目のワクチン接種が進んでいないことなどが挙げられます」
こう警鐘を鳴らすのは、日本感染症学会専門医で、東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授。
高齢者の8割以上はすでに3回目のワクチン接種を済ませているが、それより下の世代では接種率が政府の想定を大きく下回っているのが現状だ。
「2回目を打ってから4~5カ月が経過し、予防効果が落ちてきている人たちがオミクロン株に感染するというケースが増えてきていると考えられます」(寺嶋教授)
3月30日、厚生労働省の専門家会議は、直近1週間の新規感染者数の平均が増加傾向にあることから、「リバウンドにつながるか注視している」という見解を示した。
「まん延防止等重点措置が解除されたなかで、4月末からは大型連休が始まります。
感染再拡大を招く要因を抱えた状態なので、よりいっそうの注意が必要です」(寺嶋教授)
“まん防”解除に伴い、飲食店やイベント会場などでは制限の撤廃・緩和が進んでいる。
驚異的な感染力を備えるオミクロン株だが、若い世代を中心に“感染しても重症化はしにくいから”と楽観視する向きもある。
しかし実際には、オミクロン株に感染すると、後遺症によって日常生活を脅かされる危険性があるのだ――。
「2月後半から、オミクロン株の後遺症で来院する患者さんが急増しています。
多くの患者さんに見られるのは、激しい全身倦怠感に襲われる『筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群』という病気に近いタイプの症状。
これは寝たきりの状態を招くこともある、恐ろしい後遺症です」
こう語るのは、新型コロナウイルス感染症の後遺症患者の診察を行っている「ヒラハタクリニック」(東京都渋谷区)の平畑光一院長。
同クリニックは’20年3月から、新型コロナの後遺症に苦しむ患者を約3,700人も診察している。
オミクロン株の感染が広がった今年1月以降のコロナ感染者で、後遺症に悩まされて診察に訪れる患者は、すでに200人以上にのぼるそうだ。
そのうち約3分の2は女性の患者だという。
「じつは軽症だった人のほうが、倦怠感の強い後遺症になりやすい傾向があることがわかっています。
“倦怠感”と一緒に、思考力が低下して頭が働かなくなってしまう“ブレインフォグ”などの症状も多く見られます。
後遺症の観点では、これまでのデルタ株などと比べて、“オミクロン株が最悪”だといえます」
そのほか顕著に見られる症状として、気分の落ち込み、頭痛、せき、不眠などが挙げられる。
ヒラハタクリニックの統計では、オミクロン株による後遺症によって仕事に影響が出るなど、日常生活に支障をきたすことになった人はじつに76%にものぼる。
デルタ株以前の後遺症より、明らかに深刻な数字だ。
平畑院長によると、2月初旬に後遺症を発症した30代の女性患者は、トイレも這って行くのがやっとのほどで、ほとんど動けずに家で寝たきりの状態になっているという。
「彼女には小さな子どもがいるのですが、育児もできない。仕事も休職。夫が彼女の介護と育児を一人で行っている状況です」
その夫も家事、育児、介護のために休職を余儀なくされ、経済的にも苦しい状況に追い込まれつつあるという。
「彼女は体がほとんど動かないため、オンライン診療で対応していますが、“このまま介護される状態がずっと続くことになったらどうしよう……”と、泣きながら相談を受けています」
デルタ株までの国内での感染者数は累計約170万人。
その後オミクロン株に置き換わってから、感染者は約480万人も激増している。
いかにオミクロン株の感染力が強いかがわかる。
海外の研究機関の論文では、新型コロナの後遺症は、感染者の10~30%が罹患するというデータも。
「これまで国内で約650万人が感染していますから、少なくとも現時点で、65万人の日本人に後遺症が出ている可能性があります。
そのうち約50万人が、オミクロン株の後遺症になっていると考えると、かなり多くの人たちが、社会生活に支障をきたしているといえるでしょう」(平畑院長)
後遺症は一度よくなっても、ぶり返すことがある。
そのため、完治したかどうかの判断が極めて難しく、後遺症と一生付き合うリスクもあるそうだ。
「後遺症については、社会的に周知されていないのが現状です。
人生に与える悪影響は、コロナ感染そのものより、後遺症のほうが大きくなることが十分にありえます。
後遺症で以前までの日常生活が送れなくなることもある。
そういう現実をもっと知ってもらいたいです」(平畑院長)
3回目ワクチンの接種率が全体で約4割となかなか伸びないなか、長崎大学を中心とする研究チームが、3回目接種による発症予防効果に関する注目すべき報告を行った(3月25日)。
全国10都県13カ所の医療機関で新型コロナウイルスの検査を受けた16~64歳の2,000人を対象に、ワクチン接種歴や検査結果(陰性・陽性)のデータを収集し、解析が行われた(期間1月1日~2月28日)。
その結果、3回目接種をした場合、オミクロン株の発症予防効果は68.7%あることがわかった。
「これは、デルタ株が流行していた時期の、2回目接種による発症予防効果(88.7%)よりは低い数字ですが、インフルエンザワクチンなどと比較しても、十分に発症予防効果があると考えられます」
こう語るのは、長崎大学熱帯医学研究所・呼吸器ワクチン疫学分野の森本浩之輔教授。
オミクロン株に対しては、2回目接種でも十分とは言えない感染予防効果を、追加接種によって高められることが立証されたのだ。
「海外の研究でも、ワクチン接種は発症予防だけではなく、感染後の重症化を予防する効果があることも示されています。
接種後の副反応に対する不安の声も多いですが、今回の検証結果からも、3回目のワクチン接種はより広く進められるべきではないでしょうか」(森本教授)
国立感染症研究所の推計によると、オミクロン株はすでに6割がBA.2に置き換わり、5月初頭には9割を占めることになると予測されており、さらなる感染拡大も懸念されている。
前出の平畑院長はこう語る。
「オミクロン株が主流になってからは、ワクチンを2回打った人でも後遺症になる人がかなり増えました。
しかし、今のところですが、3回目を打った人が感染後に後遺症になるというケースはまれです。
3回目のワクチン接種をすることで、オミクロン株による後遺症が出づらくなる可能性はあるといえます」
強い感染力に加え、後遺症リスクも深刻なオミクロン株。
その亜種が広がりを見せるなか、当たり前の生活をこれ以上奪われないためにも、けっして油断は禁物だ。