岸田文雄首相が打ち出している「税収増の還元策」をめぐり、1人当たり年4万円の所得税減税と、低所得や高齢の非課税世帯への7万円の給付案が浮上した。

 

期間は「1年限り」が軸で検討されており、消費喚起効果としては不十分との声がある。
さらに減税ムードを打ち消しかねないのが、今後、社会保険料やエコ関連の賦課金などの「負担増」が懸念されていることだ。
「偽減税」の名付け親としても知られる早稲田大学公共政策研究所招聘研究員の渡瀬裕哉氏が解説した。

 

岸田首相は24日のテレビ東京番組で、「所得税の増収分をお返しするのが最も分かりやすい還元だ」と述べた。
所得税は2020年度から22年度まで3兆円超増えており、4万円はこれに見合った減税額というわけだ。
ただ、税収全体では同期間で10兆円超増えており、与党内には還元策として不十分との声がある。

 

減税期間について首相は「来年には物価高に負けない賃上げを実現したい。それまでの間、支えるための還元を考えていきたい」と述べ、1年になる可能性を示唆した。
だが、来年以降、全ての労働者が賃上げされるわけではない。
1年限りの減税で消費拡大につながるかは不透明だ。

 

「増税」イメージの払拭に必死の岸田政権だが、すでに防衛費増額の財源として、法人税と所得税、たばこ税の増税で、27年度までに1兆円強を確保することを決めた。
増税時期は「25年以降」としている。

 

「税金」ではないが、標的とされているのが社会保険(健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険・労災保険)の保険料だ。

 

厚労省は昨年12月、労使が払う雇用保険料率を、今年4月から0・2%引き上げて1・55%にする方針を固めた。
うち労働者の負担は現在の0・5%から0・6%に増える。
コロナ禍で雇用調整助成金の利用が増えたことで雇用保険料の積立金の残高が減少したことが背景にある。

 

武見敬三厚労相は6日の記者会見で「(雇用保険の)財政状況は危機的かと思うので、その対応措置は確実に検討してまいる」と述べた。

 

雇用保険では、いわゆる「年収の壁」対策でもターゲットだ。
従業員101人以上の企業で、年収106万円を超えると扶養から外れる「106万円の壁」対策としては、保険料を肩代わりする企業に対し、従業員1人当たり最大50万円を補助するが、雇用保険を財源とする方針だ。

 

厚労省の審議会では、年金の納付期間延長も議題に上がっている。

 

渡瀬氏は「日本では社会保険料は税金ではないとされているが、米国では『給与明細税』と呼ばれる。年金や後期高齢者の医療費の窓口負担割合や、介護保険料の見直しも議論が進んでいるが、これらも事実上、強制的に徴収されており、税と同じだ」と語る。

 

 

エコ関連の「賦課金」も注意が必要だ。
東日本大震災後の12年に太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)が導入され、「再エネ賦課金」が電気料金に上乗せされている。

 

導入後、一貫して上昇してきた賦課金の単価は、23年度に初めて低下した。
ウクライナ危機で再エネ電気の販売収入が増えたためだ。
ただ、24年度はその反動で増加に転じるとの観測も出ている。

 

政府は30年度に再エネ比率を36~38%に引き上げる目標を掲げていることから、引き続き家計の負担増に直結する懸念もある。

 

5月には脱炭素社会の実現に向けたグリーントランスフォーメーション(GX)推進法が成立した。
今後10年間で150兆円超のGXへの官民投資を実現するための新たな国債「GX経済移行債」を設け、財源として化石燃料の輸入事業者への賦課金を28年度から導入する方針だ。

 

「電気料金に上乗せされる再エネ賦課金は事実上、強制的に徴収されており、消費税を1・5%増税するのに等しい負担増になったこともある。GX賦課金も、事業者の負担は巡り巡って国民の負担になるだろう」と渡瀬氏。

 

拠出金という形をとるケースもある。
ベビーシッターを利用した際の費用を政府が補助する「ベビーシッター割引券」があるが、財源は企業から徴収する「子ども・子育て拠出金」を充てるという。

 

渡瀬氏は「企業の負担が増えれば、いずれは従業員の賃上げマインドに影響しかねない」と強調した。

 

消費税率を引き上げる際には政権を揺るがす事態となるが、保険料や賦課金などは、目立たずいつの間にか引き上げられることが多い。

 

渡瀬氏は「一連の税金名目以外の国民負担を含めれば、50%弱とされる国民負担率の実態はさらに重くなるといっても過言ではない。『税』という名前でなければ負担分を増やしても見えにくいので悪質だ。大本である税本体の税率を上下させるような税制改革が最近は出てこない」と指弾した。

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