そろそろ、No.1を入れ替えよう――。
コンビニ国内大手のファミリーマートが、そう銘打った広告を都内の渋谷駅に掲げた。
コンビニ業界でナンバー1の存在といえばセブン‐イレブン。
広告では名指ししていないものの、ファミマがセブンに挑戦状をたたき付けた格好だ。
10月18日、ファミマは記者会見を開きPB(プライベートブランド)の刷新を発表した。
お菓子類や日用品が中心の「ファミリーマートコレクション」、総菜類の「お母さん食堂」など複数あったPBを一本化し「ファミマル」に統合する。
渋谷駅の広告はこのPB刷新にあわせたものだ。
「ファミマの商品は『おいしくない』とみなさんに思われているのに、ふつうに『おいしくなりました』と言っても伝わらない。
世の中がある程度ざわつくような言い方をしないと」。
足立光CMO(最高マーケティング責任者)は、あえて挑戦的な内容にした狙いをそう説明する。
足立氏は「マーケティングのプロ」として著名な人物。
日本マクドナルドの業績回復の立役者のひとりとしても知られる。
2020年10月にファミマの初代CMOに就任し、ブランドのテコ入れに乗り出した。
今回の新PBの広告戦略も担っている。
ファミマは弁当などの商品開発力が他社に比べて劣るとよく指摘される。
しかし足立氏は、「商品が弱いと自分も思っていたが、それは大きな勘違い。イメージで圧倒的に負けている」と分析する。
実際、同社の行った消費者アンケートでみると、その“負けっぷり”は深刻だ。
「どちらのコンビニのハンバーグがおいしいと思うか」を100人に尋ねたところ、回答者の9割近くはイメージだけで「業界1位の会社」を選んだ。
だが試食後の感想では、ファミマを選んだ回答者が過半数を占めたという。
商品の認知度が低いため、戦わずして負けていた。旧PBも同じ構図といえる。
「ファミリーマートコレクションはそもそも消費者から認知されていなかった。
お母さん食堂は名称を知られていてもファミマのPBとは思われていないこともあった」。
ファミマルのブランディングを担当した広告制作会社であるGOの小林大地プランナーはそう指摘する。
お母さん食堂の名称変更を求める署名が高校生らから提出されるなど、最近はむしろ悪い意味で注目を集めた。
「母親が料理を作る」というジェンダーロール(性役割)を固定化する表現として抗議を受けたのだ。
なお今回のPB刷新は、それら抗議を受けた変更ではないとファミマは説明する。
ファミマルへのPB統合を機に、認知度アップを目指しイメージ挽回を図る。
そのために広告の打ち出し方を以前と変える。
従来は店頭、ホームページ、決済アプリの「ファミペイ」、SNSなどの各媒体で、その時々に押し出す商品が異なることも多かった。
結果として広告が散発的になり、十分な認知につながってこなかった。
店頭での訴求も変える。
これまではPBが複数あったうえに、商品カテゴリー別にきっちりブランドが分かれていたわけではなかった。
それもあって売り場では、PB商品が「『面』として見えにくく、統一感もなかった」(足立氏)。
今後は商品陳列で統一感を出していき、消費者への訴求を強める。
もちろんイメージ挽回は一朝一夕にはいかない。
「繰り返し繰り返し、おいしくなったと伝えていく。イメージは何年かかけて変わっていくものだ」と足立氏は話す。
そこまで力を入れる理由は、PBが「その会社の顔」であるとともに、安定した売り上げが見込める定番商品でもあるからだ。
定番商品が強ければ強いほど、リピート客が増え店頭での廃棄ロスも少なくなることが期待できる。
ファミマ加盟店のオーナーの1人は、「新商品の利益率はたしかに高い。だが定番商品がダメなら、そもそもお客さんの来店動機が弱いので新商品も売れない」と話す。
足立氏は就任直後から、マーケティングにおける定番商品の比重が低いことは課題だと認識。
2021年3月には、菓子パンで定番中の定番ともいえるカレーパンとメロンパンをリニューアルした。
食感などを見直すだけでなく、陳列棚で目立つように配置するなど訴求度を上げた。
「定番商品が弱いビジネスはもれなく弱い。定番商品を強くするのは基本」と強調する。
足立氏を伴ってファミマルの発表会見に臨んだ細見研介社長は、「会社の顔であるPBを大々的に変えるということは、ファミマが変化し続けていくという意志表明」と語った。
今回のPB刷新を機に、売上高に占めるPB比率を現在の30%から2024年度までに35%以上まで引き上げる。
わずか5ポイントともいえるが、ファミマとしては大きな変化になりそうだ。