連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『舞いあがれ!』(NHK)が最終回を迎えた。

 

本作は空を飛ぶことに魅せられた舞(福原遥)の物語。中盤までは凄く面白かったが、終盤で大きく失速してしまったように感じた。

 

物語は1994年から始まり、舞の成長する姿が描かれるのだが、同時に描かれたのが、バブル崩壊の影響が東大阪の町工場に押し寄せる様子だ。
舞の父・岩倉浩太(高橋克典)は工場でネジを作っていたが、不況で仕事が激減し工場閉鎖寸前まで追い詰められる。
最終的に浩太は経営危機を乗り越えるのだが、2008年のリーマン・ショックの影響で、再び工場は経営危機に。
仕事を求めて奔走する浩太は体調を崩し、やがて命を落としてしまう。

 

バブル崩壊とリーマン・ショックという二度の経済危機によって窮地に立たされる東大阪の工場を描くことで、不況に苦しむ90年代以降の日本を描こうとした試みは、高く評価したい。
特に工場を立て直すために社員をリストラする場面は、観ている側も胃が痛くなる展開で、よくぞここまで描いたと驚いた。

 

町工場の経営を中心として描いた物語は『下町ロケット』(TBS系)等の池井戸潤原作の企業ドラマのテイストを取り込んでおり、経済を軸に現代を舞台にした朝ドラを描いたという意味では、画期的な作品だったと思う。

 

同時に想定外だったのは、舞がパイロットの夢を諦めて、工場の社員として営業を担当するという展開だ。

幼少期にばらもん凧に魅せられた舞は、空に憧れ、やがて飛行機を作りたいと思うようになり、航空工学を学ぶために大学に入学する。
しかし、人力飛行機サークル「なにわバードマン」で人力飛行機のパイロットを経験したことで、今度は旅客機のパイロットになりたいと思うようになる。

 

そして、猛勉強を重ね航空学校に入学。
厳しい訓練の末に最終試験に合格し、ついにパイロットになるかと思われたが、リーマン・ショックの影響で内定をもらった会社が採用を一年延期。
その一年の間に、父が亡くなり工場が経営危機を迎えたことで、舞はパイロットの夢を諦め、社員として働くことになる。

 

舞の目的は二転三転するが「空への憧れ」という意味では常に一貫していた。
最終週では「なにわバードマン」の先輩たちが試作する「空飛ぶクルマ」の開発に関わることで、舞の「空への憧れ」という夢は果たされることになりそうだ。

 

だから中盤で舞がパイロットを諦め、営業職として働く流れ自体には納得しているのだが、終盤が失速して見えるのは、なにわバードマン編と航空学校編が青春ドラマとしてあまりにも魅力的だったことが大きいのではないかと思う。

 

やがて舞が、東大阪の人と工場をつなげる会社「こんねくと」を立ち上げるという展開は、一つひとつのエピソードに尺が足りていないためダイジェスト版を観ているようで物足りなかった。

 

また、親友で看護師の望月久留美(山下美月)、後に舞と結婚する俳人の梅津貴司(赤楚衛二)といった各登場人物のドラマもエピソードとしては悪くはないのだが、ブツ切れ感が強いため印象が薄まっている。

 

舞がパイロットの夢を諦める展開は面白かったのだが、それ以降の展開は物語を詰め込みすぎたことで焦点がぼやけており、その結果、傑作になり損なったというのが『舞いあがれ!』の印象だ。

 

本作の脚本は桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太の三人で、評価の高い物語前半の内省的な世界観は桑原によって作られたものだ。
対して、作品のトーンが大きく変わる航空学校編は嶋田と佃が手がけており、18、23、25週は佃が執筆している。

 

後半の展開がちぐはぐに感じたのは、桑原と佃が交互に執筆することで作品のトーンがぶれてしまったことが大きいのだろう。
舞の人間関係がガラッと変わる航空学校編の脚本家変更は比較的うまく行ったが、終盤の町工場編は桑原が単独で執筆するか、せめて作品のトーンを桑原の作風に寄せるべきだったと思う。

 

半年にわたって放送され、多くの専門知識が求められる朝ドラを、一人の脚本家が書くことが難しくなっていることは理解できる。
そのため、複数の脚本家による執筆体制を整えるのは必然だと思うのだが、脚本家の人数をただ増やすだけでは、各話のトーンがバラバラになってしまい、作品全体の統一感が生まれないという問題が『舞いあがれ!』の終盤では露呈してしまった。

 

2023年下半期の朝ドラ『ブギウギ』では足立紳と櫻井剛の二人が脚本を担当することが発表されている。
今回の失敗を踏まえた上で、複数脚本家による、より良い執筆体制が確立されることを祈っている。