ヤクルト本社が販売している乳酸菌飲料「Yakult(ヤクルト)1000」の人気が今、凄まじいことになっている。

 

宅配用の「Yakult1000」(100ml/税別130円)、店頭販売用の「Y1000」(110ml/税別150円)の2種類あり、公式サイトなどで「ストレス緩和」「睡眠の質向上」という効果が大々的に謳われた乳製品乳酸菌飲料だ。

 

人気爆発のきっかけは、4月4日に放送されたバラエティ番組『しゃべくり007』(日本テレビ系)でのマツコ・デラックスの発言だった。

「あれ飲んでからすごい眠りが良くなった。もうビックリ!」

 

この発言以後、SNSを中心に共感を寄せる投稿がいくつもバズり、巷には「Yakult1000」を求める人が急増。
スーパーやコンビニでは品薄状態が続き、あまりの売れ行きから公式サイトではネット販売の新規契約が中止となる事態にも発展し、その経済効果は約8億円にものぼるといわれている。

 

そんな「Yakult1000」は、従来のヤクルト製品よりも多い約1000億個もの乳酸菌を含んでいるという触れ込み。
だが一部の購入者からは「全然効果ない」「150円の価値はない」などの声もあり、その効果にはバラつきがある様子だ。
そこで今回は、健康や美容に詳しい医師・医学博士の木村至信氏に「Yakult1000」について解説してもらった。

 

乳酸菌シロタ株を1000億個以上含み、ストレス緩和、睡眠の質向上、腸内環境を良くするなど、さまざまな効果があるとされる「Yakult1000」。
だが、木村氏はそもそもこうした効果を示すデータには不十分な部分も多いと指摘する。

「公式サイトでは『ストレス緩和』『睡眠の質向上』の論拠として、ストレスのかかりやすい4年次の健常な医学部生の男女140名に、『Yakult1000』を8週間継続して飲ませたところ、ストレスを受けたときに分泌が増えるホルモン物質の一種であるコルチゾールの唾液内の濃度が低くなった、と示されています。

ですが、このデータは個人的には不十分な印象を受けました。
というのも、コルチゾールは確かにストレスを受けたときに分泌が増える傾向がありますが、そもそもは代謝を促進したり免疫機能を整えたりするホルモンの一種です。
ですから、その濃度が低くなったからといって、『ストレス緩和』や『睡眠の質向上』に直接的な効果があるとは言い切れないからです」(同)

 

木村氏は調査データの人選にも議論の余地があると続ける。

「大学4年生ということは20代前半の方がほとんどだと思いますが、これではほかの年齢層にどのような変化が出るかわからず、医学的な証明というにはデータの幅が狭すぎる印象です。

さらに、ストレス軽減の論拠として公式サイトに記載されているストレス体感調査では、同じく医学部の4年生を対象にしていますが、被験者が47人と少ないうえに、ストレスを強く感じる・感じないという2択でしかデータを取っていません。

例えばストレスといっても、食欲がない、睡眠が取れない、イライラするなどさまざまな症状が考えられます。
このデータではそれらが一緒くたにされているので、どのような人にどのような効果が出ているのかがわからないのです」(同)

 

だが、実際購入した人からは確かな効果があったという人も多い。
こちらに関しては、木村氏いわく「人によって千差万別な“腸内環境”の問題が深く影響している」とのことだ。

「まず腸内環境を良くするとどのような変化があるかについてご説明しましょう。
実は、一説によると腸は人間の免疫バランスの80%を司っているといわれています。
これは腸が出した信号を基に、脳が“では、こういうふうに身体のバランスをとりましょう”と判断しているからです。

そのため、腸内が汚れていると脳に信号を送る機能が鈍化してしまい、体調を崩しやすくなるのです。
それほど腸は人間にとって非常に大事な器官。
そして、そんな腸内環境を整えてくれるのが乳酸菌です。
なかでも『Yakult1000』に約1000億個含まれているというシロタ株が、とりわけ強力な乳酸菌なのは間違いありません。

現在、乳酸菌として認定されている菌は26属381種50亜種あるのですが、ほとんどは腸に届く前に胃酸で分解されてしまいます。
しかしシロタ株は胃酸で分解されにくく、生きたまま腸まで届くのです」(同)

 

では、そんな整腸作用が期待できるシロタ株を含む乳酸菌を「Yakult1000」で大量に摂取した人に、体質改善の効果が強くみられたということなのだろうか。

「いえ、そう単純ではありません。
腸には乳酸菌を摂取することで増える善玉菌、辛いものやお酒など腸に良くないものの連続摂取で増える悪玉菌、善玉菌と悪玉菌それぞれの増減に合わせて両者に変化する日和見菌の3つが存在しているのですが、この3つがバランスを取ることで腸内環境を整えています。

肝心なのはこの3つのバランス。
つまり、乳酸菌を過剰に摂取して善玉菌ばかり増やしても、腸内のバランスが崩れて異常に代謝が良くなり、下痢をしやすくなるなどの症状が出てしまう場合もあるのです」(同)

 

木村氏は、「Yakult1000」を飲んでその効果を実感できたという声が一定数上がっている理由は、まさにここにあると続ける。

「つまり、悪玉菌が多い状態の人が飲めば、当然腸内バランスの傾きは修正されますので、免疫機能が回復して結果的に睡眠の質向上などにつながったのではないでしょうか」(同)

 

そんな「Yakult1000」のコストパフォーマンスなどに注目していこう。

「『Yakult1000』は、宅配用の『Yakult1000』(100ml)が税別130円、店頭販売用の『Y1000』(110ml)が税別150円で販売されています。
仮に、公式サイトの調査と同じ8週間、税別150円の『Y1000』を1日1本飲み続けたとします。
するとその総額は8400円です。

この金額を高いと感じるかどうかは人それぞれだと思いますが、現在何かしらの乳酸菌製品を定期的に購入していて、これより高い額を払っている人などであれば、試してみる価値があると思います」(同)

 

ただ木村氏は、糖分をあまり摂りたくないという人であれば、無理に「Yakult1000」を飲まずとも乳酸菌を摂取する方法はあると教えてくれた。

「そのような人には無糖のヨーグルトがおすすめ。
ほかにもキムチやお漬物などの発酵食品にも乳酸菌は含まれています。
これらの食品を1日1食食べるだけで乳酸菌を摂取することは可能です。
腸内バランスは日々変わってしまうものなので、健康な腸内環境を得るのに大切なのは、乳酸菌を定期的に摂取することなのです」(同)

 

話題の「Yakult1000」だが、巷でいわれている劇的な効果がすべての人に発揮される、とはいいがたいだろう。
だが正しく摂取すれば、含まれる乳酸菌が健康の要ともいえる腸内バランスを整えてくれる側面はあるようだ。