ロシアによるウクライナ侵攻が懸念されているが、それをよく理解するためには、ロシア、米国、欧州のこれまでの経緯がわかっているほうがいい。

 

ウクライナを巡る問題は、第2次世界大戦後のNATO(北大西洋条約機構)とそれに対抗するワルシャワ条約機構の時代に遡る。

 

1949年のNATO発足時の加盟国は、ベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、アイスランド、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、イギリス、アメリカの12ヵ国だった。

その後、ギリシャ、トルコ、西ドイツ、スペインが加入し、1982年までに17ヵ国となった。
1991年にワルシャワ条約機構が解体し、ソビエト連邦の崩壊すると、ワルシャワ条約機構に加盟していた東ドイツは西ドイツに編入され、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリー、ポーランド、チェコ、スロバキアはNATOに加盟した。
旧ソ連のバルト三国、その他の国もNATOに加盟し、現在30ヵ国になっている。

 

NATOは勢力を着々と拡大してきた。
旧ソ連のウクライナとジョージアもNATO加盟を希望してきたが、これが、プーチン大統領にとって厄介な目の上のたんこぶになった。
ウクライナとジョージアのNATO加盟を阻止しようとし、両国に対しロシアは軍事的な圧力を高めてきた。
ロシアとしては旧ソ連邦のウクライナ、グルジアのNATO加盟は避けることが絶対ラインだ。
2008年の夏季北京五輪時にはロシアによるグルジア侵攻もあった。
2014年の冬期ソチ五輪後には、ロシアによるクリミア併合もあった。
五輪とロシアには深い因縁があるかのようだ。

 

ロシアはアメリカに対し、NATOが東側に拡大しないように求めたが、1月26日、米ブリンケン国務長官は文書回答でこの要求を拒否したという。
ウクライナにNATO加盟の意思がある以上、米国はこれを拒めないからやむを得ないだろう。
ウクライナは、ソ連崩壊後に核兵器や通常兵器を廃棄したものの、ロシア側から圧力を受け続けている。
ロシアとしてはウクライナが独立し、ロシアに敵対するNATOに加盟することはあってはならないと考えている。
一方、かつて、ウクライナに対し核兵器使用も考えていたロシアに対するウクライナの不信感もかなりのものだ。

 

さて、日本はどう対応すべきか。

 

NATOには加盟国の他に、パートナーシップ国としてスウェーデン、アイルランドなど20ヵ国がある。
その中には、ウクライナ、ジョージアも、そしてロシアも含まれる。
そのほかに、グローバル・パートナー国として日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドなど9ヶ国がある。
日本はその中でNATOとの協力関係にあるのだ。

 

ロシアのウクライナ侵攻は止められるのか、止められなかった場合、国際社会にどのような影響をもたらすのか。

 

ロシアは、上に見たようにウクライナのNATO加盟を阻止することを目標としている。
一方、ウクライナはNATO加盟したい。
そこで、ロシアが軍事的な圧力をかけているわけだ。

 

こうした長期的な観点から離れて、短期的な動きを見てみよう。
ウクライナは表向きNATO加盟の意向を示している。
ウクライナのゼレンスキー大統領は2月14日、キエフでドイツのショルツ首相と会談し、ゼレンスキー氏はウクライナのNATO加盟について、「私たちは選んだ道に沿って動くべきだと信じる」とした。

 

ウクライナの意思が強くNATOもそれを支援するのであれば、ロシアとしては、引き続き武力で威嚇し続けるか、ウクライナを分断し一部をロシアに引き込むしか手がなくなる。

 

後者の手法、つまりウクライナの一部をロシアに引き込む鍵として、2015年の「ミンスク合意」がある。

 

これは、ロシア、ウクライナ、ウクライナ東部2州が交わしたもので、ウクライナ東部紛争に関する停戦合意だ。
これは、戦闘の停止に加え、ウクライナ東部の親露派支配地域に「特別な地位」(自治権)を与えるなど、ロシア側に有利な内容だ。
19年に就任したウクライナのゼレンスキー大統領は、自国に不利な戦局の中で結ばれた合意の修正を求めたが、ロシアは拒否し、今に至っている。

 

このミンスク合意については、その内容の理解について温度差があるものの、独仏露ウクライナの間で、協議が継続されている。
仏独は、露ウクライナでミンスク合意を守るとしている。
ということは、ミンスク合意を守るという方向で、どこかに外交的な解決の道がありえる。

 

なかなか厳しく狭い道であるが、露ウクライナの間でミンスク合意がまとまれば、一時停戦、その後ウクライナ東部2州は自治権を認められ、いずれロシアへ併合となるかもしれない。
ウクライナにはやや不満だがロシアはまずまずだ。

 

このあたりが落とし所になるのかどうか、現段階では不透明だ。
ただし、現在ウクライナ東部での新ロシア勢力とウクライナの間で武力的な小競り合いが行われている。
これがエスカレートするのか、一時的な停戦ムードにあるのかがカギを握る。後者であれば、「ミンスク合意」がスタート台になるだろう。

 

もしこうした落とし所がなく、前者の場合になり、ロシアによるウクライナ侵攻が止められなかったら、西側諸国はロシアに対し、ドル、ユーロ、円決済停止の強力な金融制裁を課すだろう。
さすがに、これはロシアにとって大打撃だろう。
エネルギー・農産物価格は急騰するのではないか。

 

そこで、各国のエネルギー政策が、その後の展開には重要になってくる。

 

バイデン米政権は日本政府に対し、ウクライナ情勢が緊迫化し、ロシアが欧州向け天然ガスの供給を絞ることに備えて、日本が輸入するLNG(液化天然ガス)の一部を欧州向けに融通できないか要請してきたと報じられている。

 

ドイツをはじめ、ロシアのガスに頼っている欧州。
シェールガスやシェールオイルの開発に消極的な米国。
そして原発再稼働が進まない日本・・・・・・各国のエネルギー政策の問題点を突かれることになっていないか。

 

エネルギー政策は、多種多様なエネルギー源をミックスし、安定的な供給をできるだけ安いコストで行うことを目標としている。
その際、安全保障の観点から、一定の国内供給を確保するのがいい。
ただし、国内供給は安定的な供給になるが、国内資源がないことやコストの面で不利になることもあるので、多くの国では海外供給にも頼らざるを得ない。
エネルギー自給率を2018年のOECD35ヵ国でみると、アメリカ97.7%(5位)、イギリス70.4%(11位)、フランス55.1%(16位)、ドイツ37.4%(22位)、日本11.8%(34位)となっている。

 

このエネルギー政策は、この10年くらいで大きな外部環境の変化に晒されている。
2011年の東日本大震災で、福島第一原発が大事故を起こしたので、ドイツでは脱原発の動きになり、日本でも原発再稼働が簡単にできなくなっている。
その上、脱炭素化の流れも、各国のエネルギー政策の長期的な動向に影響を与えている。
各国において、脱石炭火力の動きになるとともに、短期的には天然ガス火力へのシフト、さらに中期的には再生エネルギーへのシフトが起こっている。
エネルギー自給率の低いドイツではロシアからの天然ガスへの依存が大きい。

 

そうした背景があって、上述した日本の輸入するLNGの欧州向け融通という話につながった。

 

こうした状況への解決策は、かねてから筆者の主張は、アメリカによるシェールの増産である。
ロシアが欧州向けた天然ガス供給を止めるのは、供給そのものを止めるという脅しだが、それによりエネルギー価格が上昇する。

 

それがロシア経済には好都合だからだ。
アメリカによるシェールの増産は、世界的なエネルギー不足を補うとともに、エネルギー価格の低下につながる。
これはロシア経済には大きな打撃になるともに、エネルギー自給率の低い国にとっては援軍だ。
はたして環境派のバイデン政権が踏み切れるか。

 

なお、日本は、エネルギー自給率を高め、世界の動向が国内への影響を少なくするために、原発再稼働を進めていく必要がある。

 

欧州で、原発がクリーンエネルギーに位置づけられたのも、ロシアの欧州への圧力とは無縁ではない。
フランスなどは原発新増設の動きもあるし、他の欧州国でも同様だ。

 

こうした国際情勢の動きを読めずに、歴代5人の日本の首相がEUに原発をクリーンエネリギーにしたことを抗議する書簡を出したことは、国際政治音痴、国内お花畑論を世界に向かってさらけ出したもので、日本人として本当に恥ずかしい。