「タバコを吸う人は新型コロナウイルスに感染しにくい」。
国立広島大学と関西医科大学の研究グループは8月18日、タバコの煙の成分が新型コロナの感染を抑制するとの研究結果を発表した。
研究結果はScientific Reportsに掲載された。
新型コロナ感染者に喫煙者が少ない、あるいは、喫煙者の新型コロナウイルス陽性者が少ないという報告は英、米、仏などの研究グループから複数報告されている。
しかし、喫煙が新型コロナ感染に与える影響は明らかにはなっていなかった。
研究グループは、タバコ煙成分をヒト細胞に処理して、ACE2 遺伝子発現量の変化を観察した。
ACE2(アンギオテンシン変換酵素2)は、細胞の膜に存在する膜タンパク質の1つ。
新型コロナの感染を引き起こすスパイクタンパク質はACE2に結合し感染が促進される。
この結果、タバコ煙成分はACE2発現を抑制するという驚くべきことが判明した。
そこで、細胞の中でどのようなことが起こっているのか明らかにするために、網羅的に遺伝子発現量の変化を観察したところ、タバコ煙成分は芳香族炭化水素受容体の活性化を通じて、 ACE2発現を抑制している可能性が示唆された。
さらに、芳香族炭化水素受容体を様々な方法で活性化させたり抑制したりする実験により、芳香族炭化水素受容体の活性化を通じてACE2発現量が抑制されることが確認された。
芳香族炭化水素受容体(AHR)はさまざまなアリール炭化水素(=多環芳香族炭化水素)などをリガンドとして結合するタンパク質。
リガンドが結合することで活性化し、特定の遺伝子の発現を誘導する。
また、生体内の様々な物質と結合して生理的な作用を示す。
また、芳香族炭化水素受容体を活性化する化合物の中で、食物などに含まれるトリプトファンの代謝物や既に薬として使用されている胃潰瘍治療薬であるプロトンポンプ阻害薬により、ACE2発現量が一過性に抑制されることも明らかになった。
さらに、これらの化合物を用いて、新型コロナが細胞に感染する(細胞に侵入する)量が抑制できることを培養細胞株VERO 細胞を用いた細胞感染モデルで証明した。
これにより、通常、病状を悪化させると考えられるタバコ煙成分が、新型コロナについては逆の作用があることが明らかになった。
また、食物などに含まれるトリプトファンの代謝物や、胃潰瘍治療薬であるプロトンポンプ阻害薬にも新型コロナ感染に抑制効果があることが明らかになった。
トリプトファンの代謝物は、必須アミノ酸の1つ。
トリプトファンはその代謝物とともに、脳の健康や心血管代謝調節などさまざまな生理機能に重要な働きを果たしている。
プロトンポンプ阻害薬は胃壁細胞のプロトンポンプ(水素イオン,プロトンを能動輸送し、生体膜の内外に膜電位勾配を作り出す機能)に作用し、胃酸の分泌を抑制する薬。
ただし、この研究による発見は、新型コロナの抗ウイルス薬として利用できるものではないため、感染を抑制することはできても、感染したウイルスの増幅を阻害することはできない。
つまり、治療薬にはならないということだ。
従って、研究グループでは、「効果的な類似化合物の探索や抗ウイルス薬との併用療法を検討することが重要。新しい治療・予防法のオプション開発により、新型コロナの感染治療への応用が期待される」としている。
新型コロナには「あおさが効果がある」「納豆が効果がある」といった報道が出ると、その商品がスーパーの棚から消え、ネットなどで高値販売をする事例があるが、さすがにタバコがコンビニの棚から消えることはないだろうし、喫煙率が上昇することもないだろう。
繰り返しになるが、タバコの煙の成分の1つに新型コロナの感染抑制効果が見つかったということで、タバコが健康被害を与えることに変化はない。