26日からスタートしたTBS系の金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』。
阿部サダヲ主演、宮藤官九郎脚本、2人とも村杉蝉之介のアレには心を痛めていることでしょう。

 

プロデューサーはTBSの磯山晶さん。
要するに『池袋ウエストゲートパーク』『木更津キャッツアイ』で一時代を築いた布陣となっていますが、世界観はどっちかといえば映画『舞妓Haaaan!!!』(07)寄りな感じ。
阿部サダヲが、実にうるさい。

 

触れ込みは「意識低い系タイムスリップコメディ」とのことで、昭和のダメおやじが令和にタイムスリップして、当時の価値観による「不適切」な発言で停滞した空気をかき回すのだそうです。
振り返りましょう。

 

クドカンも阿部サダヲも、1970年生まれ。
このドラマが扱う86年は高校生ですね。
実に楽しそうに「昭和あるある」が繰り出されます。

 

中学野球部の顧問であるオガワ(阿部)は、練習中に生徒を罵倒し、気を抜けばウサギ跳びをさせ、練習中に水を飲んではいけないと信じ込んでいる。
職員室でも教室でもバスの中でも平気でタバコを吸うし、同僚の女性教師にセクハラ発言もする。女性教師もにこやかに応じる。

 

一方で、家に帰れば女子高生の娘がいる。
娘はどうやら、すぐに男を家に連れ込むようだ。
オガワはいつも、早く家に帰らないと「娘がニャンニャンしちゃう!」と言って駆けずり回っている。
娘のほうは一目惚れされた中学生男子をお持ち帰りしている。

 

1977年生まれの筆者は当時小学校5年生だが、確かに職員室のデスクには灰皿があったし、駅のホームにもあった。
大人がホームから線路にポイポイ吸い殻を投げていた風景も覚えている。
AXIAのメタルテープとか、『シェイプアップ乱』とか、琴線に触れるガジェットも少なくない。
いい感じでご機嫌を取られる風景ではある。

 

そんなオガワの乗ったバスが令和にタイムスリップしてしまう。
最後列で普通にタバコを吸っているオガワは奇異の目を向けられ、老人から「副流煙」という知らない単語を浴びせかけられ、逆上する。
同乗していたミニスカ女子高生に「パンツ見えそうなスカートはいて、痴漢してくださいって言ってるようなもんだぜ」と言い放つ。
スマホ、IQOS、AirPods、さまざまなカルチャーギャップが描かれる。

 

オガワは昭和では、うまくやっているように見える。
同僚とも仲がいいし、娘ともワチャワチャ言い合いながらも楽しくやっている。
つまり、オガワは昭和の象徴として登場している。

 

そんなオガワが令和の喫茶店に入り、昼間から1人でビールを飲んでいる女性のコップを奪って、勝手に飲み干すシーンがある。

「ごめん、喉渇いちゃって」

このシーンがめちゃめちゃ違和感があって、このドラマをどう見たらいいのか迷ってしまった。
こんなやついねえよ、と思ってしまったのだ。

こんなやつ、昭和にいたって鼻つまみ者だろと。

 

その違和感はクライマックスでさらに増幅することになる。

 

令和の居酒屋で1人で酒を飲んでいるオガワ。
隣席では、会社員の男女がハラスメントについて話をしている。
「こういう時代だから」とか何とか、そういう話題だ。

 

タブレットでの注文がうまくいかなくてイラついているオガワは、その話題に割り込んでいく。
「どういう時代?」。すごく厚かましい態度だ。

 

さっきのビールを奪われた女性も、ここでの会社員の女性も、オガワへの対応がすごく変なのだ。
すごくまともに相手をしている。
オガワのやっていることはバスの中でタバコをすってクダを巻いていたときと何も変わっておらず(というか、ここに一貫性があるからドラマになるわけで)、にもかかわらず、すごくまともに対応している。
バスのときと同様、ドン引きして「ナイフ持ってるかも」くらい怖がるほうがずっと自然なのに。

 

オガワは令和のバスの中では明らかに異物だった。
だが、同じ令和の喫茶店と居酒屋では、オガワはたやすく受け入れられている。
話を聞くべき人物として扱われている。

 

ひとつ、ステップが抜けている感じがするのだ。
オガワを不適切な言動を繰り返す不適切な人間として登場させるのはいい。
だが令和の人々が、なぜそんなオガワの話に耳を傾けるのか、オガワはどうやって令和の人々を振り向かせるのか、そのステップが抜けている。
居酒屋の横の席で〆鯖を200人前注文してひとりで怒鳴り散らかしている中年男なんて、クスリやってるとしか思えないでしょう、普通。(あ、蝉之介さん……)

 

こういう筋立ての場合、「昭和の普通」と「令和の普通」との間での衝突があって、それによって展開なりメッセージなりが発生していくはずなんですが、オガワも会社員男女も「時代の普通」を背負えてないので、「話し合いましょう」vs「殴り合いましょう」というメッセージの対比も上滑りしてるし、この物語でもって世代間の相互理解を促そうという意図なら、第1話に限っては失敗していると思う。
ミュージカルになるのは楽しくていいけど、堂々と言いたくないんだろうなとも思っちゃうし。

 

クドカン脚本で阿部サダヲ主演なら、こういうキャラクターになるのはもう手癖みたいなものだと思うし、世界観の中でバリバリの異物としてなら輝くキャラクターだとも思うんですが、時代や世代を背負わせる普遍的な役割には不適切だなと感じました。

 

難しそうだな、第2話を待ちましょう。

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