日本人の身体の健康寿命は延びているが、認知症の増加傾向をみると脳の健康寿命が延びているとは言えない。
認知症の兆しを早期につかむ最新研究はどこまで進んでいるのか。

 

認知症の予防・治療の第一人者でアルツクリニック東京院長の新井平伊医師が、脳が健康な状態から認知症に至る段階を説明する。

「かつては健常者と認知症という2つの分類しかありませんでしたが、今は医学的に、その間に主観的認知機能低下(SCD)、軽度認知障害(MCI)の2つの分類が入ってきています。
SCDとは、検査しても認知機能の低下はみられないがもの忘れの自覚がある状態。
MCIは、認知機能の低下が確認できるものの、日常生活に大きな支障はなく認知症とまでは診断されない状態です。
1年間にMCIの人の10~15%が認知症のひとつ、アルツハイマー病へ移行するとされます」

 

アルツハイマー病に、画期的な新薬が登場しようとしている。
現在、承認審査中のアルツハイマー治療薬「アデュカヌマブ」だ。

 

アルツハイマー病にはこれまで症状を緩和する薬はあったが、発症を止めたり、遅らせたりする承認薬はまだない。
病気の進行に直接介入する働きを狙って米製薬大手バイオジェンとエーザイが共同開発した「アデュカヌマブ」が承認されれば、アルツハイマー病の世界初の根本治療薬となる。

「米国食品医薬品局(FDA)が昨夏、申請を受理し、総合的に承認審査中です。
今年3月末までに結論が出る見通しでしたが、判断が難しいのか6月末まで延期になりました。
承認されるかどうかを世界中の医療関係者が注視しています」(新井医師)

 

日本では2020年12月、新薬承認を申請、審査が進んでいるが、米国での審査結果が影響するとみられる。

 

SCD、MCIを認知症に進ませないためにも脳の老化を早期に把握し、元の状態への回復や老化を止めるための手を打つことが大切だ。

 

「脳の老化に早めに気付くためのキーワードは『変化』」と新井医師は指摘する。

「なぜかイライラする、眠れなくなる、ど忘れが増える、同じことを何度も聞くようになるなど、これまでの生活や仕事ぶりと比較し“違う何か”を見逃さないことが重要です」