『トップガン マーヴェリック』が2022年5月27日より日米同時公開される。

 

1986年の前作『トップガン』からなんと36年ぶり(製作上は34年ぶり)となる続編であり、しかも新型コロナウイルスのパンデミックにより度重なる延期を経ての「やっと」の公開となるため、首を長くして待っていた、期待に胸を膨らませているファンは数知れないだろう。

 

結論から申し上げれば、本作はその期待に応えるどころではなかった。
上がりきったハードルを余裕で超えていく、あらゆる続編映画の中でもトップクラスの完成度を誇る、素晴らしい作品だった。
事実、批評サイトRottenTomatoesでは現在批評家支持率97%という圧倒的な高評価を得ている。

 

今回から観ても最低限の情報は提示されているし、わかりやすいエンターテインメント性が打ち出されているので、『トップガン』を全く知らない方でも楽しめる内容であるとも思う。
だが、可能であれば前作を観ておいて、思い入れたっぷりのまま映画館に足を運ぶのがおすすめだ。
「かなり昔に観たことがあるな」くらいのおぼろげな印象のまま観ても、きっと記憶を呼び覚まされ、だからこその感動があるだろう。

 

また、本作は3画面に広がる「ScreenX」上映が一部劇場で実施されている。
筆者は試写で体験したのだが、これが空中戦の迫力マシマシ、「ちょうど劇場がコクピットになる」擬似体験ができ、作品との相性がものすごく良かった。
池袋のグランドシネマサンシャインとシネマサンシャインららぽーと沼津ではそのScreenXと体感型アトラクションシアターの4DXと合体した「4DX SCREEN」上映も実施されているので、ぜひこちらも候補に入れて観てほしい。
IMAXでの鑑賞ももちろん良いだろう。

 

『トップガン』が好きな方、トム・クルーズのファン、ただただ胸がアツくなる面白い映画が観たい方、それぞれに文句なしにおすすめだ。
何より、迫力の映像を堪能できる大スクリーンでこそ観てほしい。
それだけで終わってもいいのだが、ネタバレに触れない範囲でさらなる『トップガン マーヴェリック』の魅力を記していこう。
なお、あらすじの時点で前作『トップガン』の重要なシーンには触れているので、まだ観ていない方は先に観ることをおすすめする。

 

あらすじを紹介しよう。

アメリカ海軍のエリートパイロット養成学校のトップガン、その伝説のパイロットのマーヴェリック(トム・クルーズ)が教官として帰ってきた。訓練生の中には、かつてマーヴェリックとの訓練飛行中に命を落とした、相棒グースの息子ルースター(マイルズ・テラー)の姿もあった。訓練生たちは極秘ミッションに挑むための訓練を重ねるのだが……。

 

『トップガンマーヴェリック』と『トップガン』の関係および物語は、『クリード チャンプを継ぐ男』(15)に対する『ロッキー』(76)に近い。
両者とも長い時を経ての(後者はその間にもシリーズがあるが)続編であり、どちらも命を落としてしまった相棒(親友でありライバル)の息子に、指導をする立場で向き合う物語が共通しているのだ。

 

どちらの作品でも、息子は単純な憎しみだけとは言えない、複雑な感情を父のかつての相棒に覚えている。
一時は「分断」をされていた彼らの関係がどのように変化し、帰着していくか、そのドラマが大きな魅力となっている。

 

『トップガン マーヴェリック』では、その他にも型破りな教官および訓練生たちの成長の物語、前作のキャラクターとの関係性、難攻不落なミッションに挑む様が展開していく。
一本の娯楽映画としてバランス良く仕上がっていて、『トップガン』ファンへのサービスを込めるだけでなく、長い時を経たからこその“切なさ”込みのドラマが紡がれていることも特筆すべきだろう。

 

前作から35年後のマーヴェリックは、人々が存在すら知らないような航空機のテストをしている。
バーの片隅で、現役の訓練生たちと距離を取り、彼らのことをかつての自分たちを重ね合わせるように、寂しそうに見ているというシーンもある。
今回のマーヴェリックには、長年の培った経験があってこその誇らしさと、昔の自分のままではいられない時の流れと、覆せない過去の出来事の残酷さをも感じさせるのだ。

 

その切なさのドラマは、とある形で見事に昇華されることになる。
『トップガン』から『トップガン マーヴェリック』と合わせた物語として、ここまで理想的な物語が紡がれるとは思ってもみなかった。
矛盾しているようだが、「本当に見たいものを見せてくれる」ことこそが意外でもあり、それが劇中最大の感動でもあった。

 

本作の最大の見どころはアクション、それも本物の戦闘機に俳優が乗り撮影したからこその、リアリティのある空中戦が体験できることだろう。

 

前作『トップガン』の時もトム・クルーズは実際にコックピットに乗り込み撮影をしていたのだが、その他のキャストたちは訓練経験が浅く、その映像は残念ながら使うことができなかったのだそうだ。
だが、今回の『トップガン マーヴェリック』の出演者たちは何ヶ月も前から訓練を受け、飛行やGの基本やメカニズムに慣れることができた。
前作とは違って、トム・クルーズ以外の俳優たちも実際に飛行中のコックピットで演技をしているのだ。

 

時速600マイル(約965km)に達する戦闘機では強力なG(重力加速度)もかかるため、それに耐えるだけでも容易なことではない。
そのため、訓練生を演じる俳優たちはトム・クルーズが特別に設計した戦闘プログラムで文字通り“昇進”しなければならなかった。
つまり、俳優たちの奮闘が劇中の役ともシンクロする、ある意味で半ドキュメンタリー的な側面も持っているとも言える。

 

そして、劇中のミッションは「奇跡がいくつも起きないと達成不可能」であり、なおかつ「一手を誤れば死ぬ」危険と常に隣り合わせ。
本物の戦闘機に乗ってこそのリアリズムのある映像と、スピーディーに打ち出されるハラハラドキドキは「手に汗握る」という言葉でも足りない。
今これをスクリーンで観ずに何を観るんだと言うほどの、かつてない、もう2度とないかもしれない映画体験だった。

 

『トップガン マーヴェリック』の監督は、2012年に亡くなったトニー・スコットに代わり、ジョセフ・コシンスキーが務めている。
命を落とした人物の意志を継ぎ続編が作られたということは、劇中の物語ともシンクロしている。

 

ジョセフ・コシンスキーは『トロン:レガシー』(10)でも何十年ぶりの続編を手がけ、『オブリビオン』(13)ではトム・クルーズとタッグを組み、さらに消防士たちの実話を描く『オンリー・ザ・ブレイブ』(17)でリアル路線の作品も手がけた実績もあるなど、今回の映画にはピッタリの人選だったと言って良い。

 

前作をいかにリスペクトした内容であるかは、上記にあげたドラマや迫力の映像はもちろん、オープニングの画と耳に残るテーマ曲からも大いにわかるだろう。
そして、最後まで観れば「これほどまでに愛情に溢れた映画を作ってくれてありがとう」と作り手に最大級の感謝を多くの方が捧げるのではないか。
筆者が試写で本作を観た時も、観客からは自然と拍手が起こり、会場は多幸感に包まれていたのだから。
その意味でも、ぜひ映画館で観ていただきたい。