西島秀俊主演の連続ドラマ『真犯人フラグ』(日本テレビ系)。
最終回を前にネットなどでは犯人についての“考察合戦”が盛んに行われている。
果たして真犯人は?
どんな展開になるのか注目が集まっているが、コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんは「絶対に避けたい3つの結末がある」と指摘する。
その3つとは――。

 

13日夜、昨秋から2クールにわたって放送されていたドラマ『真犯人フラグ』がいよいよ最終回を迎えます。

 

同作は序盤から中盤にかけて
「どこまで引っ張るつもりなの?」
「あやしい人物の後出しが多すぎ」
「伏線のようなものばかりで進展しない」
などのネガティブな声が続出。
同時期に放送されていた同じ長編ミステリーの『最愛』(TBS系)と比べられたことも、それに拍車をかけました。

 

しかし、年をまたいだあたりから「けっきょく気になって見てしまう」「何だかんだ言って面白くなってきた」などのポジティブな声が増え、徐々にネット上の考察合戦がヒートアップ。
とりわけ2月に入ってからは、謎の解明や伏線の回収が進み、放送前後はSNSの書き込みが増えて盛り上がっています。

 

ただ、最終回の放送日が近づくにつれて目立ちはじめているのが、期待感と同等以上の不安。
「こんな最終回だけはやめてほしい」という不安を書き込む人が増えているのです。
『真犯人フラグ』の最終回で避けなければいけない結末とはどんなものなのでしょうか。

 

『真犯人フラグ』の最終回に採り上げる上で、ふれておかなければいけないのは、2年前に同じ日曜ドラマで放送された2クール長編ミステリーで、スタッフの多くが重なる『あなたの番です』。
同作は右肩上がりで注目度を上げながら、「犯人はサイコパス」「ラストシーンが謎だらけ」「真犯人の過去をHuluで配信」という最終回の結末に不満の声が飛び交っていました。

 

まず絶対に避けなければいけない結末の1つ目は、『あなたの番です』と同じ、あるいは彷彿させないこと。
ただ、第18話で橘一星(佐野勇斗)が「サイコパスのフリをする」という『あなたの番です』を“振り”に使うような一歩進んだ脚本を見せていただけに心配はなさそうです。

 

となれば気になるのは、「続きはHuluで」への不安。
しかし、当時の批判がこたえたのか、日本テレビはスタート前から「Season2はHuluで配信します」と予告していた『君と世界が終わる日に』以外この戦略を行っていないだけに、後出しの心配はなさそうです。

 

では、それ以外で絶対に避けなければいけない結末とはどんなものなのか。

 

ここまで視聴者に多くの時間をかけて視聴してもらい、考察をうながしてきたミステリー作品である以上、「最低限のモラルとして守らなければいけない」と言われているのが、「ノックスの十戒」「ヴァン・ダインの二十則」。
これらは推理小説を書くときの一般的なルールとして知られているものであり、ネット上のコメントでもたびたび「この結末は十戒や二十則の点でありえない」などと批判の根拠として引用されています。

 

その十戒と二十則の中で、特に『真犯人フラグ』が注意したいと思われるのは、主に以下の5つ。

1「犯人は物語の当初に登場していなければならない。物語の中で重要な役を演ずる人物でなくてはならない」
2「いくつ殺人事件があっても、真犯人は一人でなければならない」
3「探偵自身が犯人であってはならない」
4「プロの犯罪者を犯人にしてはならない」
5「提示していない手がかりによって解決してはならない」

なかでも、最も避けなければいけない結末は1でしょう。
ただ、「ついに事件を操っていた真犯人が判明!それは、信頼した部下か、支えてくれた友か、愛する妻か?それとも…!?すべての謎が明かされ、最後に打たれる終止符とはー!?」という最終回の説明文を見る限り問題ないのかもしれません。

 

つまり有力なのは、「信頼した部下の瑞穂(芳根京子)か、支えてくれた友の河村(田中哲司)と日野(迫田孝也)か、愛する妻の真帆(宮沢りえ)」ということではないでしょうか。

 

2に関しては、たとえば河村と日野、あるいは、瑞穂と真帆の「2人が真犯人だった」という結末の可能性もありえるでしょう。
肝心なのは「1人か、2人か、もっと多いのか」ではなく、共犯の理由や動機を視聴者に納得させることであり、それさえできれば批判を受けることはなさそうです。

 

ちなみに、3は凌介(西島秀俊)、4は強羅(上島竜平)が真犯人ということであり、もしこれらだったら批判必至ですが、さすがにないでしょう。
また、「最終話の鍵を握る」というSNSの小説を前話で登場させたことから「フェアにいこう」という制作姿勢が見えますし、5の可能性は低そうです。

 

最終回の放送前に、「すべての謎が明かされる」と大々的にPRしているだけに、多少の矛盾や謎を残してしまったとしても、大筋の物語では制作サイドを信じてもいいのかもしれません。

 

もう1つ避けたい結末として挙げておきたいのは、視聴者に「説教くさい」と感じさせないこと。
たとえば、瑞穂の姉はネット上の誹謗中傷がきっかけで自殺し、凌介も「疑惑の夫」とされて精神的に追い詰められましたが、「それはよくないからやめよう」という結末はエンターテイメントにしては説教じみていて、受け入れられ難いところがあります。

 

実際、3年前に同じ「日曜ドラマ」で放送された『3年A組 -今から皆さんは、人質です-』は、終盤に向けて大きな盛り上がりを生みながら、「SNSで誹謗中傷した人々が事実上の真犯人」という結末に賛否両論。
しかし、目立っていたのは、「説教っぽい」「ただの正論」「一番つまらない展開」などの否定であり、最終回でトーンダウンした感は否めませんでした。
「誰が真犯人かを考える」という楽しみ方をしている人も多いだけに無理もないでしょう。

 

その点、『真犯人フラグ』は当時の教訓も踏まえて、「説教くさい」とみなされかねないメッセージ性を込めることより、エンターテイメントとして真犯人の動機や犯行方法をしっかり描くことが求められているのです。

 

ここまで挙げてきたように、
「『あなたの番です』のような禁じ手を使わず、Hulu誘導をしない」
「真犯人は当初から主要人物として出演していた人にして動機を明快にする」
「説教くさいメッセージ性を込めない」。
この3点をクリアできれば、それなりに視聴者を納得させられるのではないでしょうか。

 

いずれにしても、約半年間と放送期間が長かった分、“終わり方”のハードルが高くなりますが、リアルタイム視聴する人が増え、盛り上がるのは間違いありません。
だからこそ、素晴らしい最終回を見せて、「半年間見続けてよかった」という声が飛び交うことを祈っています。